本記事について:PD(システム)試験(仮称)科目B「シラバス(案 Ver0.2)」(IPA・2026年7月31日更新)を根拠に解説する教科書記事です。
科目B(技能)の内容はVer0.1から変更ありません(当サイトでVer0.1とVer0.2の全文を突合して確認)。Ver0.2では新たに
科目A-2(専門知識)の出題範囲の細目が公開されました。試験名は仮称、科目A-1(共通知識)・試験時間・出題数・配点・合格基準は
未公表、内容は検討段階の
「案」で今後変更の可能性があります。(最終更新:2026年7月31日/出典:
IPA公式)
この記事は、PD-S(システム)試験(仮称)科目B 第4章の3節目、小項目4-3「システム開発の手法の適用」の教科書です。4-1・4-2で「作る・確かめる」の中身を学びました。本節は一段引いて、開発の進め方そのものをどう選ぶか。シラバス案はここでアジャイル開発・CI/CD・DevSecOps・AI駆動開発という現代の4手法を名指ししています——旧シラバスの過去問資産が効かない、新試験の性格が濃く出る節です。4つの手法を前提知識ゼロから解説し、シラバスの結論である「取捨選択」と「テーラリング」の考え方まで身につけます。
この節の全体像 — 知る→選ぶ→合わせる
技能1知る — 開発の方法論・技術動向を調査して、開発手法に関する知見を蓄積する。
技能2選ぶ — プロジェクトの特性・システム要件を踏まえて、適切な手法(アジャイル開発,CI/CD,DevSecOps,AI駆動開発など)を取捨選択して提案する。
技能3合わせる — 手法をプロジェクト特性に合わせてテーラリングし、適用を推進する。
シラバス案の動詞に注目——「適用する」ではなく「取捨選択して提案する」「テーラリングし…推進する」。つまり「流行の手法を使えるか」ではなく、使うべきかを判断し、現場に合う形に調整できるかが問われる技能です。「アジャイルが常に正解」という選択肢は誤答筋だと最初に覚えてください。
前提知識:ウォーターフォールとアジャイル — 2大進め方の対比
ウォーターフォール開発:要件定義→設計→実装→テスト→リリースと、工程を順番に一度ずつ進める進め方。滝のように後戻りしないことが名前の由来。計画と文書を重視し、全体像を最初に固める。
アジャイル開発:短い期間(数週間)の反復で「動くソフトウェア」を少しずつ作り、実物を見せてフィードバックを得ながら方向修正していく進め方。変化への適応を重視する。
図1:ウォーターフォールとアジャイル — 一度で作り切るか、反復で育てるか
| 観点 |
ウォーターフォール |
アジャイル |
| 要件の前提 |
最初に固められる(変わりにくい) |
作りながら分かってくる(変わり得る) |
| 成果の出方 |
最後にまとめて完成 |
反復ごとに動くものが増えていく |
| 変更への強さ |
後半の変更は高くつく |
反復単位で方向修正できる |
| 向くケース |
要件が明確・大規模・契約や規制で工程管理が厳格(基幹系・組込みの量産等) |
要件が流動的・利用者の反応を見たい(新サービス・SoE系) |
優劣ではなく適材適所:4-1のSoR/SoEの対比を思い出してください。記録を守るSoRは計画重視が、反応を見て育てるSoEは反復が馴染みやすい——
プロジェクトの特性から選ぶのが技能2の核心です。実務では両者を組み合わせる(全体計画は固めつつ、画面部分は反復で作る等)ことも一般的です。
技能2の名指し手法:CI/CD・DevSecOps・AI駆動開発
シラバス案・技能の例②
プロジェクトの特性やシステム要件を踏まえて,適切なシステム開発手法(アジャイル開発,CI/CD,DevSecOps,AI 駆動開発など)を取捨選択して提案するスキル
CI/CD — 統合とリリースを自動化して高頻度にする
CI(継続的インテグレーション):開発者がコードを共有リポジトリに反映するたびに、
ビルドとテストを自動で実行する仕組み・習慣。
4-1で「結合は問題が出る工程」と学んだ——CIはその結合を
毎日・自動で小さく行うことで、問題を発生直後に検出する。
CD(継続的デリバリー/デプロイ):CIの先で、テスト済みのソフトウェアをいつでもリリースできる状態に保つ(さらに自動で本番反映まで行う形も)仕組み。リリース作業の手作業を減らし、小さな変更を頻繁に安全に届けられる。
図2:CI/CDパイプラインとDevSecOps — 自動化の流れに、セキュリティを最初から織り込む
DevSecOps — 開発・セキュリティ・運用を一体に
DevOps:開発(Development)と運用(Operations)が分業で対立しがちだった壁を取り払い、一体のチーム・自動化された流れで「作って動かす」を回す考え方。CI/CDはその主要な道具。
DevSecOps:DevOpsにセキュリティ(Sec)を最初から組み込む考え方。従来はリリース直前にセキュリティ検査をして手戻りしていたのを、企画・設計・実装の各段階に検査・対策を織り込む。この「後工程でやっていたことを前倒しする」発想をシフトレフトと呼ぶ(工程を左から右へ描いたとき、左=早い段階へ移すため)。
4-1のレビュー(欠陥は早いほど安い)、4-2のテスト計画(先に基準を決める)と同じ思想がセキュリティにも及んだ、と理解すると1本につながります。
AI駆動開発 — AIを開発の相棒にする(新語)
AI駆動開発:コードの生成・補完、テストケースの作成、レビュー支援、ドキュメント作成などにAIを活用して開発を加速するアプローチの総称。シラバス案Ver0.2で明示された新しいキーワード。
導入の効果は開発速度と定型作業の削減。一方で、押さえるべき論点があります——AIが生成したコードの品質・セキュリティの検証責任は人間側にあること(生成物は誤り得る。3-3のフィジカルAIと同じ「確率的な出力に備える」構図)、機密情報の取り扱い、著作権・ライセンスの確認。つまりAI駆動開発とは「AIに任せる開発」ではなく、レビュー・テスト(4-1・4-2)の規律を保ったままAIで加速する開発です。
技能1・技能3:知見の蓄積とテーラリング
シラバス案・技能の例①
システム開発の方法論や技術動向を調査して,システム開発手法に関する知見を蓄積するスキル
手法は流行り廃りが速い領域です。新しい手法・ツールの動向を追い、自組織で試した結果(うまくいった点・合わなかった点)を組織の知見として蓄積する——次のプロジェクトの「取捨選択」の判断材料は、この蓄積から生まれます。2-1(技術動向の評価)と同じ構図です。
シラバス案・技能の例③
システム開発の手法をプロジェクト特性に合わせてテーラリングし,プロジェクト適用を推進するスキル
テーラリング:手法・標準プロセスをそのまま導入するのではなく、プロジェクトの特性(規模・要件の安定度・体制・規制)に合わせて仕立て直すこと。服の仕立て(テーラー)が語源。
例:「教科書どおりのアジャイルでは会議が多すぎる小規模チーム→反復の長さと会議体を調整」「規制業種で全面的な頻繁リリースは不可→社内向け機能だけCDを適用」「ウォーターフォール主体だが、画面のプロトタイプ部分だけ反復型を組み込む」。手法は道具であり、現場が主。導入して終わりではなく、回してみて調整し続ける(推進する)ところまでが技能3です。
混同しやすい概念の整理
| 紛らわしいペア |
違いの核心 |
| ウォーターフォール ⇔ アジャイル |
一度で作り切る(計画・文書重視) ⇔ 反復で育てる(適応重視)。優劣でなく、要件の安定度など特性で選ぶ |
| CI ⇔ CD |
CI=コード反映のたびに自動ビルド・テスト(統合の自動化)。CD=その先、いつでもリリースできる状態に保つ(届ける自動化)。CIが土台 |
| DevOps ⇔ DevSecOps |
DevOps=開発と運用の一体化。DevSecOps=そこにセキュリティを最初から組み込む(シフトレフト) |
| 導入 ⇔ テーラリング |
導入=手法をそのまま使い始める。テーラリング=特性に合わせて仕立て直してから適用する。シラバス案が求めるのは後者 |
| AI駆動開発 ⇔ AI任せ開発 |
AI駆動=AIで加速しつつ検証責任は人間が保持(レビュー・テストの規律は維持)。生成物を無検証で使うのは手法ではなく事故 |
確認クイズ(4問)
この節の理解度チェックです(当サイト独自の予想問題。公式の出題ではありません)。
問1|手法の選択
開発手法の選択に関する記述として、最も適切なものはどれか。
解説:シラバス案の文言どおり「特性や要件を踏まえて取捨選択」(イ)が正解。アの「新しい=常に優れる」は定番の誤答筋(要件が固定的な大規模基幹系ではウォーターフォールが合理的なことも多い)。ウ・エは特性に合わせる姿勢(テーラリング)の放棄です。
問2|CI/CD
CI(継続的インテグレーション)の説明として、最も適切なものはどれか。
解説:CI=反映のたびに自動ビルド・テスト(ウ)。結合の問題を「毎日・小さく・自動で」見つける仕組みで、アの「最後にまとめて結合」はCIが解決しようとした問題の側です。イは要件定義の話、エは運用監視(2-3)の話です。
問3|DevSecOps
DevSecOpsにおける「シフトレフト」の説明として、最も適切なものはどれか。
解説:シフトレフト=工程図の左(早い段階)へ前倒しすること(ア)。「欠陥は早く見つけるほど安い」(4-1のレビュー)と同じ思想のセキュリティ版です。イは真逆(シフトライト的な先送り)、エはDevSecOpsの「一体化」と逆行します。
問4|AI駆動開発
AI駆動開発(AIによるコード生成の活用)の進め方として、最も適切なものはどれか。
解説:AI駆動開発の要点は「加速はするが、検証責任は人間が保持」(エ)。AIの出力は誤り得るため、レビュー(4-1)・テスト(4-2)の規律は維持します。アはその放棄、イは機密・ライセンスの論点の無視、ウは「取捨選択して提案する」というシラバスの趣旨に反する思考停止です。
まとめ:小項目4-3で身につけること
- 技能3つ=知る(動向調査と知見蓄積)→選ぶ(特性から取捨選択して提案)→合わせる(テーラリングして推進)。「流行だから使う」は誤答筋。
- ウォーターフォール(一度で作り切る・計画重視)⇔アジャイル(反復で育てる・適応重視)は優劣でなく適材適所。要件の安定度・規模・規制で選ぶ。
- CI=反映ごとに自動ビルド・テスト、CD=いつでもリリースできる状態を保つ。結合の痛みを「毎日・小さく・自動で」に変える。
- DevSecOps=DevOpsにセキュリティを最初から(シフトレフト)。「早いほど安い」の思想をセキュリティにも。
- AI駆動開発=規律を保ったままAIで加速。生成物の検証責任・機密・ライセンスが導入の論点。
- テーラリング=手法を現場の特性に仕立て直すこと。手法は道具、現場が主。
関連記事・次に読む
« 第4章「システムの開発・運用」の章ハブへ戻る
出典(一次情報)
- IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目B シラバス(案 Ver0.2)」大項目4・小項目4-3(2026年7月31日更新)[link]。本文中の「技能の例」引用は同シラバス案からの原文引用です。
- IPA「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 出題範囲等の改定案 Ver.1.0」(2026年3月)
※試験名は仮称、内容は検討段階の案です。試験の形式・時間・配点・合格基準は未公表のため本記事では扱いません。技術解説(ウォーターフォール/アジャイル、CI/CD、DevSecOps、AI駆動開発、テーラリングなど)は一般に確立した知識に基づく当サイトの解説で、シラバスの記載そのものではありません。確認クイズは当サイト独自の予想問題です。正式シラバス公開時に内容を更新します。