この記事は、PD-S(システム)試験(仮称)科目B 第2章「ネットワークに関すること」の1節目、小項目2-1「ネットワーク基盤(クラウド環境を含む)を構成する各種通信方式,プロトコル,アドレッシング,通信規格,VPN,ネットワーク・サーバ仮想化技術,ネットワークセキュリティ技術などのネットワーク関連技術の適用」の教科書です。シラバス案がこの小項目に挙げる技能の例は8つ——科目B全小項目の中で最多で、第2章の土台になる技術知識が凝縮されています。TCP/IPの階層の考え方から、IPアドレス・DNS、VPN、仮想化、そして新語の目玉ゼロトラストまで、前提知識ゼロから解説します。
この節の全体像 — 8つの技能は「4テーマ」に整理できる
技能の例8つは、次の4テーマに整理すると見通しが立ちます。
テーマ①:プロトコルとレイヤ(技能1・技能2)
各レイヤーの通信プロトコルの特性を理解し,ネットワーク基盤に反映するスキル
前提知識:なぜネットワークは「レイヤ(階層)」で考えるのか
ネットワークの仕事は「ケーブルに電気信号を流す」から「Webページを表示する」まで幅が広すぎるため、役割ごとの階層(レイヤ)に分けて、各層に専門のプロトコルを置くという設計になっています。実務・試験で最も使われるのがTCP/IPの4階層モデルです。
図1:TCP/IPの4階層モデルと各層の代表プロトコル
| 層 | 役割 | 代表プロトコル |
|---|---|---|
| アプリケーション層 | サービスごとの会話の中身(Web・メール・名前解決…) | HTTP/HTTPS、SMTP、DNS など |
| トランスポート層 | アプリ同士の通信の品質を担保(確実に届ける/速く届ける) | TCP、UDP |
| インターネット層 | 宛先のネットワークまで経路を選んでデータを運ぶ | IP |
| ネットワークインタフェース層 | 隣接する機器まで物理的に信号を届ける | イーサネット、Wi-Fi など |
技能1の核心は、この中でもTCPとUDPの使い分けに代表される「特性の理解」です。
Web・電子メール・VoIP 通信などの上位層サービスの特性を理解し,ネットワーク基盤に反映するスキル
技能2は、上位層サービスの特性を基盤側の設計に落とす技能です。VoIP(インターネット経由の音声通話)は遅延・揺らぎに極端に敏感なので、帯域の確保や優先制御を基盤側で用意する。Webは瞬間的にアクセスが集中するので、その分の帯域とサーバ側の分散を見込む——「上で何が流れるか」を知らずに土管だけ設計してはいけない、というのがこの技能の趣旨です。
テーマ②:ネットワーク資源と標準(技能3・技能4)
IP アドレス・AS 番号・ドメイン名などのネットワーク資源を体系的に設計・管理するスキル
IPアドレスとアドレッシング
ドメイン名とDNS、AS番号
各種標準や技術動向を評価し,ネットワーク基盤に反映するスキル
ネットワークは他者とつながるための仕組みなので、独自方式ではなく標準(広く合意された仕様)に沿うことが相互接続の大前提です。技能4は、新しい規格・技術(無線の新規格、暗号方式の世代交代など)を「うちの基盤に採り入れるべきか」を評価し、更新計画に反映する技能。標準から外れた設計・古い規格の放置は、将来の接続性・安全性の負債になるという感覚をおさえてください。
テーマ③:多様な通信環境・仮想化・クラウド(技能5・6・7)
IoT/M2M・エッジコンピューティング・モバイル・リモートアクセスなどの多様な通信環境の要件を取り込むスキル
- IoT/M2M:M2M(Machine to Machine)は機器同士が人を介さず通信すること。IoTの文脈では、大量の機器が小さなデータを常時送る——台数が桁違いに多く、1台あたりは細い通信をどう収容するかが設計課題。
- エッジコンピューティング:データを全部クラウドへ送らず、発生源の近く(エッジ)で処理する方式。遅延を減らし、通信量を削減できる。工場の画像検査など「即時の判断」が要る用途で重要。
- モバイル・リモートアクセス:社外・移動中から社内資源へ安全にアクセスする要件。ここで使われる代表技術がVPNです。
柔軟なネットワーク構成を実現するために,ネットワーク基盤の構成要素について仮想化技術を評価・適用するスキル
1-4でサーバの仮想化を学びましたが、同じ発想はネットワークにも適用できます。物理的な配線・機器の構成はそのままに、ソフトウェアの設定で論理的なネットワークを自由に区切ったり作り替えたりする——例えば1本の物理ネットワークの上に、経理用・開発用・来客用の仮想的に分離されたネットワークを重ねる、といった構成です。組織変更のたびに配線工事をせずに済み、クラウド環境のネットワークはこの仮想化を前提に成り立っています。
クラウド環境を適切に活用するために,クラウドコンピューティング(SaaS・PaaS・IaaS)の特性を理解しネットワーク接続要件を設計に反映するスキル
クラウド活用(1-4)が進むほど、これまで社内で完結していた通信がインターネット越しになります。すると、①社内からクラウドへの帯域が足りるか、②重要システムはインターネットを経由しない閉域接続(専用線的な接続サービス)にすべきか、③拠点ごとに直接クラウドへ抜ける経路にするか本社経由に集約するか——といった接続要件の設計が必要になります。SaaS/PaaS/IaaSのどれをどれだけ使うかで通信の量と質が変わるため、クラウドの利用計画とネットワーク設計はセットで考えるのが技能7です。
テーマ④:境界防御とゼロトラスト(技能8)
境界防御及びゼロトラストの考え方に基づきネットワークセキュリティ技術を評価し,適用するスキル
本節の新語の目玉です。2つの考え方を対比で理解します。
図2:境界防御とゼロトラスト — 「城と堀」から「毎回確認」へ
なぜゼロトラストが必要になったのか。①クラウド利用で守るべき資産が社外(クラウド上)に出た、②リモートワークで利用者が境界の外から働くようになった、③攻撃者がひとたび境界を突破すると内側では素通しになる——つまり「境界」そのものが実態と合わなくなったためです。ただし試験的にも実務的にも、境界防御が不要になったのではなく、ファイアウォール等の境界の守りにゼロトラストの検証を重ねる多層の防御へ進化した、と捉えるのが正確です。シラバス案が「境界防御及びゼロトラスト」と並記しているのはその表れと読めます。
混同しやすい概念の整理
| 紛らわしいペア | 違いの核心 |
|---|---|
| TCP ⇔ UDP | TCP=確実・順序保証(確認しながら送る。Web・メール向き)。UDP=軽い・速い・保証なし(リアルタイムの音声・映像向き) |
| グローバルIP ⇔ プライベートIP | グローバル=インターネット全体で一意の住所。プライベート=組織内限定の住所(外に出るとき変換する) |
| ドメイン名 ⇔ IPアドレス | 人間用の名前 ⇔ 機械用の住所。両者を対応づける仕組みがDNS |
| エッジ ⇔ クラウド | エッジ=データ発生源の近くで処理(低遅延・通信量減)。クラウド=集約して処理(大規模計算・全体分析)。役割分担であり対立ではない |
| 境界防御 ⇔ ゼロトラスト | 境界防御=境界を守り中は信頼。ゼロトラスト=場所を問わず毎回検証。実務は両者を重ねた多層防御 |
確認クイズ(4問)
この節の理解度チェックです(当サイト独自の予想問題。公式の出題ではありません)。
VoIP(音声通話)のように、多少のデータ欠落よりも遅延の小ささが重要な通信に適したトランスポート層のプロトコルはどれか。
DNSの役割の説明として、最も適切なものはどれか。
ゼロトラストの考え方の説明として、最も適切なものはどれか。
工場の製造ラインで、カメラ画像から不良品を即時に判定して弾きたい。エッジコンピューティングを採用する主な理由として、最も適切なものはどれか。
まとめ:小項目2-1で身につけること
- 技能8つ=①プロトコルとレイヤ ②資源と標準 ③多様な環境・仮想化・クラウド ④境界防御とゼロトラストの4テーマ。本節は第2章全体の道具箱。
- ネットワークはレイヤで分業:アプリケーション(HTTP・SMTP・DNS)/トランスポート(TCP=確実、UDP=速い)/インターネット(IP=経路)/インタフェース(イーサネット・Wi-Fi)。上位サービスの特性(VoIPは遅延に敏感等)を基盤設計に反映する。
- ネットワーク資源は体系的に:IPアドレスはサブネットで計画的に設計、名前はDNSで解決、インターネットはASの集合。標準への追従は接続性・安全性の生命線。
- VPN=共用網上の仮想専用線。ネットワークも仮想化で論理的に分離・再構成できる。クラウド利用の拡大は接続要件(帯域・閉域・経路)の設計を必須にする。
- ゼロトラスト=場所を問わず毎回検証。境界防御の廃止ではなく、多層に重ねる進化と捉える。
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出典(一次情報)
- IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目B シラバス(案 Ver0.2)」大項目2・小項目2-1(2026年7月31日更新)[link]。本文中の「技能の例」引用は同シラバス案からの原文引用です。
- IPA「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 出題範囲等の改定案 Ver.1.0」(2026年3月)
※試験名は仮称、内容は検討段階の案です。試験の形式・時間・配点・合格基準は未公表のため本記事では扱いません。技術解説(TCP/IPの階層、DNS、VPN、ゼロトラストなど)は一般に確立した知識に基づく当サイトの解説で、シラバスの記載そのものではありません。確認クイズは当サイト独自の予想問題です。正式シラバス公開時に内容を更新します。

