【PD-S教科書】2-1 ネットワーク関連技術の適用を基礎から徹底解説|TCP/IPのレイヤ・IPアドレスとDNS・VPN・境界防御とゼロトラスト【シラバス案Ver0.2対応】

PD-S教科書 2-1 ネットワーク関連技術の適用 プロフェッショナルデジタルスキル(システム)
本記事について:PD(システム)試験(仮称)科目B「シラバス(案 Ver0.2)」(IPA・2026年7月31日更新)を根拠に解説する教科書記事です。科目B(技能)の内容はVer0.1から変更ありません(当サイトでVer0.1とVer0.2の全文を突合して確認)。Ver0.2では新たに科目A-2(専門知識)の出題範囲の細目が公開されました。試験名は仮称、科目A-1(共通知識)・試験時間・出題数・配点・合格基準は未公表、内容は検討段階の「案」で今後変更の可能性があります。(最終更新:2026年7月31日/出典:IPA公式

この記事は、PD-S(システム)試験(仮称)科目B 第2章「ネットワークに関すること」の1節目、小項目2-1「ネットワーク基盤(クラウド環境を含む)を構成する各種通信方式,プロトコル,アドレッシング,通信規格,VPN,ネットワーク・サーバ仮想化技術,ネットワークセキュリティ技術などのネットワーク関連技術の適用」の教科書です。シラバス案がこの小項目に挙げる技能の例は8つ——科目B全小項目の中で最多で、第2章の土台になる技術知識が凝縮されています。TCP/IPの階層の考え方から、IPアドレス・DNS、VPN、仮想化、そして新語の目玉ゼロトラストまで、前提知識ゼロから解説します。

この節の全体像 — 8つの技能は「4テーマ」に整理できる

技能の例8つは、次の4テーマに整理すると見通しが立ちます。

技能1・2①プロトコルとレイヤ — 各レイヤの通信プロトコルの特性(技能1)と、Web・電子メール・VoIPなど上位層サービスの特性(技能2)を理解し、ネットワーク基盤に反映する。
技能3・4②ネットワーク資源と標準 — IPアドレス・AS番号・ドメイン名を体系的に設計・管理し(技能3)、各種標準・技術動向を評価して基盤に反映する(技能4)。
技能5〜7③多様な通信環境・仮想化・クラウド — IoT/M2M・エッジ・モバイル・リモートアクセスの要件を取り込み(技能5)、仮想化技術を評価・適用し(技能6)、クラウド(SaaS・PaaS・IaaS)の接続要件を設計に反映する(技能7)。
技能8④ネットワークセキュリティ境界防御及びゼロトラストの考え方に基づき、セキュリティ技術を評価・適用する。
小項目2-1は「技術の適用」、次の2-2が「基盤の設計・構築」、2-3が「運用・トラブル対応」。つまり本節は第2章全体の道具箱です。ここの用語(レイヤ・アドレッシング・ゼロトラスト等)が曖昧なまま2-2以降に進むと総崩れになるため、最重要節と位置づけて丁寧にいきます。

テーマ①:プロトコルとレイヤ(技能1・技能2)

シラバス案・技能の例①
各レイヤーの通信プロトコルの特性を理解し,ネットワーク基盤に反映するスキル

前提知識:なぜネットワークは「レイヤ(階層)」で考えるのか

プロトコル:通信の約束事。「どんな形式で・どんな手順でデータをやり取りするか」の取り決め。互いに同じプロトコルを話せる機器同士だけが通信できる。

ネットワークの仕事は「ケーブルに電気信号を流す」から「Webページを表示する」まで幅が広すぎるため、役割ごとの階層(レイヤ)に分けて、各層に専門のプロトコルを置くという設計になっています。実務・試験で最も使われるのがTCP/IPの4階層モデルです。

図1:TCP/IPの4階層モデルと各層の代表プロトコル

TCP/IPの4階層モデル。上からアプリケーション層(HTTP・SMTP・DNSなど、サービスごとの会話)、トランスポート層(TCP・UDP、確実に届けるか速く届けるか)、インターネット層(IP、宛先までの経路を運ぶ)、ネットワークインタフェース層(イーサネット・Wi-Fi、隣の機器まで信号を届ける)

役割 代表プロトコル
アプリケーション層 サービスごとの会話の中身(Web・メール・名前解決…) HTTP/HTTPS、SMTP、DNS など
トランスポート層 アプリ同士の通信の品質を担保(確実に届ける/速く届ける) TCP、UDP
インターネット層 宛先のネットワークまで経路を選んでデータを運ぶ IP
ネットワークインタフェース層 隣接する機器まで物理的に信号を届ける イーサネット、Wi-Fi など

技能1の核心は、この中でもTCPとUDPの使い分けに代表される「特性の理解」です。

TCP:相手と接続を確立し、届いたか確認しながら送る。確実・順序保証だが、確認のやり取りの分だけ遅延が増える。Web・メール・ファイル転送向き。
UDP:確認なしで一方的に送る。軽くて速いが、届く保証はない。音声・映像のようにリアルタイム性が命で、多少の欠落より遅延が問題になる通信向き。
シラバス案・技能の例②
Web・電子メール・VoIP 通信などの上位層サービスの特性を理解し,ネットワーク基盤に反映するスキル

技能2は、上位層サービスの特性を基盤側の設計に落とす技能です。VoIP(インターネット経由の音声通話)は遅延・揺らぎに極端に敏感なので、帯域の確保や優先制御を基盤側で用意する。Webは瞬間的にアクセスが集中するので、その分の帯域とサーバ側の分散を見込む——「上で何が流れるか」を知らずに土管だけ設計してはいけない、というのがこの技能の趣旨です。

テーマ②:ネットワーク資源と標準(技能3・技能4)

シラバス案・技能の例③
IP アドレス・AS 番号・ドメイン名などのネットワーク資源を体系的に設計・管理するスキル

IPアドレスとアドレッシング

IPアドレス:ネットワーク上の機器を識別する住所。インターネット全体で一意なグローバルIPアドレスと、組織内でのみ通用するプライベートIPアドレスがある。社内はプライベートで運用し、インターネットに出るときにグローバルへ変換するのが一般的な構成。
アドレッシング(アドレス設計):組織のネットワークを部門・拠点・用途ごとのサブネット(小さな区画)に分け、それぞれにアドレスの範囲を計画的に割り当てること。行き当たりばったりに割り当てると、拠点追加・統合のたびにアドレスが衝突し、作り直しになる。「体系的に設計・管理」とはこの計画性を指す。

ドメイン名とDNS、AS番号

ドメイン名とDNS:人間が覚えやすい名前(example.co.jp)と、機械が使うIPアドレスを対応づける仕組みがDNS(ドメインネームシステム)。世界中のDNSサーバが階層的に分担して「名前→アドレス」の変換(名前解決)を担う。
AS番号:インターネットは、通信事業者や大組織がそれぞれ運営するAS(自律システム)という大きなネットワークの集合体。ASを識別する番号がAS番号で、AS同士が経路情報を交換し合うことでインターネット全体の通信が成り立っている。
シラバス案・技能の例④
各種標準や技術動向を評価し,ネットワーク基盤に反映するスキル

ネットワークは他者とつながるための仕組みなので、独自方式ではなく標準(広く合意された仕様)に沿うことが相互接続の大前提です。技能4は、新しい規格・技術(無線の新規格、暗号方式の世代交代など)を「うちの基盤に採り入れるべきか」を評価し、更新計画に反映する技能。標準から外れた設計・古い規格の放置は、将来の接続性・安全性の負債になるという感覚をおさえてください。

テーマ③:多様な通信環境・仮想化・クラウド(技能5・6・7)

シラバス案・技能の例⑤
IoT/M2M・エッジコンピューティング・モバイル・リモートアクセスなどの多様な通信環境の要件を取り込むスキル
  • IoT/M2M:M2M(Machine to Machine)は機器同士が人を介さず通信すること。IoTの文脈では、大量の機器が小さなデータを常時送る——台数が桁違いに多く、1台あたりは細い通信をどう収容するかが設計課題。
  • エッジコンピューティング:データを全部クラウドへ送らず、発生源の近く(エッジ)で処理する方式。遅延を減らし、通信量を削減できる。工場の画像検査など「即時の判断」が要る用途で重要。
  • モバイル・リモートアクセス:社外・移動中から社内資源へ安全にアクセスする要件。ここで使われる代表技術がVPNです。
VPN(Virtual Private Network):インターネットなどの共用ネットワークの上に、暗号化によって仮想的な専用線を作る技術。拠点間の接続や、在宅勤務者から社内ネットワークへの接続(リモートアクセス)に広く使われる。
シラバス案・技能の例⑥
柔軟なネットワーク構成を実現するために,ネットワーク基盤の構成要素について仮想化技術を評価・適用するスキル

1-4でサーバの仮想化を学びましたが、同じ発想はネットワークにも適用できます。物理的な配線・機器の構成はそのままに、ソフトウェアの設定で論理的なネットワークを自由に区切ったり作り替えたりする——例えば1本の物理ネットワークの上に、経理用・開発用・来客用の仮想的に分離されたネットワークを重ねる、といった構成です。組織変更のたびに配線工事をせずに済み、クラウド環境のネットワークはこの仮想化を前提に成り立っています。

シラバス案・技能の例⑦
クラウド環境を適切に活用するために,クラウドコンピューティング(SaaS・PaaS・IaaS)の特性を理解しネットワーク接続要件を設計に反映するスキル

クラウド活用(1-4)が進むほど、これまで社内で完結していた通信がインターネット越しになります。すると、①社内からクラウドへの帯域が足りるか、②重要システムはインターネットを経由しない閉域接続(専用線的な接続サービス)にすべきか、③拠点ごとに直接クラウドへ抜ける経路にするか本社経由に集約するか——といった接続要件の設計が必要になります。SaaS/PaaS/IaaSのどれをどれだけ使うかで通信の量と質が変わるため、クラウドの利用計画とネットワーク設計はセットで考えるのが技能7です。

テーマ④:境界防御とゼロトラスト(技能8)

シラバス案・技能の例⑧
境界防御及びゼロトラストの考え方に基づきネットワークセキュリティ技術を評価し,適用するスキル

本節の新語の目玉です。2つの考え方を対比で理解します。

図2:境界防御とゼロトラスト — 「城と堀」から「毎回確認」へ

境界防御とゼロトラストの対比。境界防御は社内と社外の境界を守り、中に入った通信は信頼する(城と堀のモデル)。ゼロトラストは何も信頼せず、社内外を問わずすべてのアクセスを毎回検証する(利用者・端末・状況を確認してから許可)

境界防御:「社内は安全、社外は危険」という前提で、その境界にファイアウォールなどの防御を集中させる考え方。城壁と堀で守る城のモデル。中に入った通信は基本的に信頼する。
ゼロトラスト:何も無条件には信頼しない」を前提に、社内外を問わずすべてのアクセスを毎回検証する考え方。誰が(利用者の認証)、どの端末で(端末の健全性)、何に(アクセス先の権限)を、アクセスのたびに確認して初めて許可する。

なぜゼロトラストが必要になったのか。①クラウド利用で守るべき資産が社外(クラウド上)に出た、②リモートワークで利用者が境界の外から働くようになった、③攻撃者がひとたび境界を突破すると内側では素通しになる——つまり「境界」そのものが実態と合わなくなったためです。ただし試験的にも実務的にも、境界防御が不要になったのではなく、ファイアウォール等の境界の守りにゼロトラストの検証を重ねる多層の防御へ進化した、と捉えるのが正確です。シラバス案が「境界防御及びゼロトラスト」と並記しているのはその表れと読めます。

混同しやすい概念の整理

紛らわしいペア 違いの核心
TCP ⇔ UDP TCP=確実・順序保証(確認しながら送る。Web・メール向き)。UDP=軽い・速い・保証なし(リアルタイムの音声・映像向き)
グローバルIP ⇔ プライベートIP グローバル=インターネット全体で一意の住所。プライベート=組織内限定の住所(外に出るとき変換する)
ドメイン名 ⇔ IPアドレス 人間用の名前 ⇔ 機械用の住所。両者を対応づける仕組みがDNS
エッジ ⇔ クラウド エッジ=データ発生源の近くで処理(低遅延・通信量減)。クラウド=集約して処理(大規模計算・全体分析)。役割分担であり対立ではない
境界防御 ⇔ ゼロトラスト 境界防御=境界を守り中は信頼。ゼロトラスト=場所を問わず毎回検証。実務は両者を重ねた多層防御

確認クイズ(4問)

この節の理解度チェックです(当サイト独自の予想問題。公式の出題ではありません)。

問1|プロトコルの特性

VoIP(音声通話)のように、多少のデータ欠落よりも遅延の小ささが重要な通信に適したトランスポート層のプロトコルはどれか。




解説:確認のやり取りを省いて軽く・速く送れるのはUDPです。TCPは確実・順序保証の代わりに遅延が増えるため、リアルタイム音声には不向き。HTTP・DNSはアプリケーション層のプロトコルで、トランスポート層の選択肢ではありません(層の仕分けも同時に問う問題です)。

問2|ネットワーク資源

DNSの役割の説明として、最も適切なものはどれか。




解説:DNSは名前解決(ドメイン名→IPアドレスの変換)の仕組みです(ウ)。アはVPN、イはアドレス変換、エはAS間の経路交換の説明で、それぞれ別の仕組み。似た「変換・対応づけ」系の役割を正確に仕分けられるかが狙いです。

問3|ゼロトラスト

ゼロトラストの考え方の説明として、最も適切なものはどれか。




解説:ゼロトラスト=「何も無条件には信頼せず、毎回検証」(エ)。アは境界防御の考え方そのもの。イは誤解の定番で、ゼロトラストは境界防御の廃止ではなく、検証を重ねる多層化です。ウは「一度入れば素通し」で、ゼロトラストが解決しようとした問題の側です。

問4|エッジコンピューティング

工場の製造ラインで、カメラ画像から不良品を即時に判定して弾きたい。エッジコンピューティングを採用する主な理由として、最も適切なものはどれか。




解説:エッジの利点は低遅延と通信量削減(ア)。「即時に弾く」にはクラウド往復の遅延が許されず、大量の画像を全部送るのは帯域の無駄——だから発生源の近くで判定します(技能5)。イはむしろクラウド集約の話、ウ・エはエッジとは無関係です。

まとめ:小項目2-1で身につけること

  • 技能8つ=①プロトコルとレイヤ ②資源と標準 ③多様な環境・仮想化・クラウド ④境界防御とゼロトラストの4テーマ。本節は第2章全体の道具箱。
  • ネットワークはレイヤで分業:アプリケーション(HTTP・SMTP・DNS)/トランスポート(TCP=確実、UDP=速い)/インターネット(IP=経路)/インタフェース(イーサネット・Wi-Fi)。上位サービスの特性(VoIPは遅延に敏感等)を基盤設計に反映する。
  • ネットワーク資源は体系的に:IPアドレスはサブネットで計画的に設計、名前はDNSで解決、インターネットはASの集合。標準への追従は接続性・安全性の生命線。
  • VPN=共用網上の仮想専用線。ネットワークも仮想化で論理的に分離・再構成できる。クラウド利用の拡大は接続要件(帯域・閉域・経路)の設計を必須にする。
  • ゼロトラスト=場所を問わず毎回検証。境界防御の廃止ではなく、多層に重ねる進化と捉える。

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出典(一次情報)

  • IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目B シラバス(案 Ver0.2)」大項目2・小項目2-1(2026年7月31日更新)[link]。本文中の「技能の例」引用は同シラバス案からの原文引用です。
  • IPA「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 出題範囲等の改定案 Ver.1.0」(2026年3月)

※試験名は仮称、内容は検討段階の案です。試験の形式・時間・配点・合格基準は未公表のため本記事では扱いません。技術解説(TCP/IPの階層、DNS、VPN、ゼロトラストなど)は一般に確立した知識に基づく当サイトの解説で、シラバスの記載そのものではありません。確認クイズは当サイト独自の予想問題です。正式シラバス公開時に内容を更新します。

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