【PD-S教科書】1-5 組込み・制御システムのアーキテクチャ設計を基礎から徹底解説|HW/SW分割のトレードオフ・フェールセーフ・法令と知財【シラバス案Ver0.2対応】

PD-S教科書 1-5 組込み・制御システムのアーキテクチャ設計 プロフェッショナルデジタルスキル(システム)
本記事について:PD(システム)試験(仮称)科目B「シラバス(案 Ver0.2)」(IPA・2026年7月31日更新)を根拠に解説する教科書記事です。科目B(技能)の内容はVer0.1から変更ありません(当サイトでVer0.1とVer0.2の全文を突合して確認)。Ver0.2では新たに科目A-2(専門知識)の出題範囲の細目が公開されました。試験名は仮称、科目A-1(共通知識)・試験時間・出題数・配点・合格基準は未公表、内容は検討段階の「案」で今後変更の可能性があります。(最終更新:2026年7月31日/出典:IPA公式

この記事は、PD-S(システム)試験(仮称)科目B 第1章の最終節、小項目1-5「IoTを含む組込みシステム,制御システムにおける,ソフトウェアとハードウェアの間のトレードオフ,セーフティ・高信頼性,環境・法令などを考慮したシステムアーキテクチャ設計」の教科書です。1-1〜1-4が「業務システム」を主な題材にしていたのに対し、本節の主役は機械の中で動くコンピュータ。家電・自動車・工場設備・IoT機器の世界です。ここではソフトの都合だけでは設計が完結せず、ハードウェアとの分担、人命に関わる安全、使用環境、法令までがアーキテクチャの決定要因になります。技能の例3つを全展開し、前提知識ゼロから解説します。

この節の全体像 — 設計・選定・法令の3技能

技能1分割設計する — 要件・課題を分析して機能要件・非機能要件を策定した上で、サブシステム分割と、トレードオフを考慮したハードウェア・ソフトウェア分割設計を行う。
技能2評価・選定する — セーフティ・高信頼性・使用環境を考慮して、デバイス・モジュール・OS・ミドルウェアの情報を収集し、評価・選定する。
技能3法令・知財を要件化する — システムに関連する法令・規程・知的財産権を調査し、システムの要件として設定する。
この小項目は、旧制度でエンベデッドシステムスペシャリスト(ES)試験が扱っていた領域に相当すると考えられます(※新旧の詳細対応は公式には未公表のため推測を含みます)。業務システム畑の受験者にとっては馴染みの薄い用語が多い一方、問われる考え方は第1章で一貫した「要件と制約からトレードオフを判断する」です。用語の壁さえ越えれば得点源にできます。

前提知識:組込みシステム・制御システム・IoTとは何か

組込みシステム:特定の機器に組み込まれ、その機器専用の機能を実現するコンピュータシステム。炊飯器の火加減制御、自動車のブレーキ制御、エレベーターの運行制御など。パソコンのような汎用コンピュータと違い、決まった仕事を、限られた資源(CPU・メモリ・電力)で、確実にこなすことが使命。
制御システム:センサーで対象の状態を測り、目標に合わせて機器を動かす(制御する)システム。組込みシステムの中核的な役割で、工場の生産ラインやプラントでは大規模な制御システムが稼働している。
IoT(Internet of Things/モノのインターネット):センサーを持つ機器(モノ)をネットワークにつなぎ、データの収集・分析・遠隔制御を行う仕組み。組込みシステムがネットにつながった形と捉えると分かりやすい。

組込み・制御システムの基本構成は、次の3要素の流れで理解します。

図1:組込み・制御システムの基本構成 — 測って、判断して、動かす

組込み・制御システムの基本構成。センサー(温度・速度・位置などを測る)からコンピュータ(ソフトウェアが判断・制御する)へ、そしてアクチュエーター(モーター・バルブ・表示を動かす)へという流れ。IoTではネットワーク経由でクラウドともつながる

  • センサー:物理的な状態(温度・速度・位置・圧力・明るさ…)を電気信号として測る部品。
  • コンピュータ(プロセッサ+ソフトウェア):センサーの値をもとに判断し、制御の指示を出す。
  • アクチュエーター:指示を受けて物理的に動かす部品。モーター、バルブ、ヒーター、ブレーキなど。

「エアコンは温度センサーで室温を測り、ソフトウェアが判断して、コンプレッサー(アクチュエーター)の出力を変える」——この測る→判断する→動かすのループが、あらゆる組込み・制御システムの骨格です。

技能1:ハードウェア・ソフトウェア分割設計とトレードオフ

シラバス案・技能の例①
システムの要件及び課題を分析し,機能要件及び非機能要件を策定した上で,アーキテクチャ構築のためにサブシステム分割設計及びトレードオフを考慮したハードウェア・ソフトウェア分割設計を行うスキル

順序に注目してください。まず要件(機能・非機能)を策定し、その上で分割設計——1-2・1-3で学んだ要件定義が、組込みの世界でも設計の前提になります。そのうえで組込み特有の設計判断が2つあります。

サブシステム分割

大きなシステムを、役割ごとの部分システム(サブシステム)に分けることです。自動車なら「エンジン制御」「ブレーキ制御」「車内表示」のように分割し、それぞれを独立して開発・検証できるようにします。安全上重要な部分(ブレーキ)とそうでない部分(オーディオ)を分離しておくことは、後述のセーフティ設計の土台にもなります。

ハードウェア・ソフトウェア分割(HW/SW分割)

組込みでは、ある機能を専用ハードウェア(電子回路)で実現するか、ソフトウェアで実現するかを選べます。これがこの小項目の名前にも入っている「ソフトウェアとハードウェアの間のトレードオフ」です。

観点 ハードウェアで実現 ソフトウェアで実現
処理速度 速い(専用回路が直接処理) 相対的に遅い(プロセッサで逐次処理)
消費電力 専用化により抑えやすい プロセッサの稼働に依存し大きくなりがち
変更のしやすさ 出荷後の変更は困難(回路は作り直し) 更新で変更できる(不具合修正・機能追加)
開発費と量産単価 回路開発の初期費が大きいが、大量生産では1台あたりが安くなることがある 初期費は抑えやすいが、高性能プロセッサが必要になれば部品代が上がる
「映像の圧縮処理」を例にすると:処理が重く消費電力もシビアなカメラ製品では専用ハードウェアに任せ、仕様変更が頻繁な通信処理はソフトウェアに残す——のように、要件(性能・電力・変更頻度・コスト・数量)に照らして機能ごとに置き場所を決めるのがHW/SW分割設計です。唯一の正解はなく、要件が変われば最適解も変わります。
「速さと省電力ならハード寄り、柔軟さならソフト寄り」という軸を覚えたうえで、問題文の要件(量産台数・変更頻度・電力制約)から根拠を持って選ぶ練習をしておきましょう。根拠のない「とりあえずソフトで」は誤答筋です。

技能2:セーフティ・高信頼性・使用環境を考慮した評価・選定

シラバス案・技能の例②
システムのアーキテクチャを構成するために,セーフティ,高信頼性及び使用環境を考慮したデバイス,モジュール,OS,ミドルウェアなどの情報を収集し,評価・選定を行うスキル

セーフティ:壊れても危険を生まない設計

組込み・制御システムは人命・設備に直結するものが多く、「故障しないこと」だけでなく「故障しても安全であること」が求められます。これを支える設計の考え方が次の4つです(試験の定番用語です)。

図2:安全・信頼性設計の4つの考え方(定番の使い分け)

安全設計の4つの考え方。フェールセーフは故障したら安全側に倒す(信号機は故障時に赤)。フェールソフトは故障しても機能を縮小して動き続ける。フォールトトレランスは冗長化で故障しても全機能を続行。フールプルーフは誤操作をそもそもできなくする(ドアを閉めないと動かない電子レンジ)

フェールセーフ:故障したときに安全側に倒れるように設計する。例:信号機が故障したら赤を表示する/ヒーターが異常を検知したら加熱を止める。
フェールソフト:故障しても機能を縮小しながら動き続ける。例:一部のセンサーが壊れても、残りのセンサーで制限運転を続ける。
フォールトトレランス:部品を冗長化(二重化など)して、故障が起きても全機能を継続する。例:電源を二重化したサーバ。
フールプルーフ:人間の誤操作をそもそもできなくする。例:ドアを閉めないと動かない電子レンジ/向きを間違えると挿せないコネクタ。

高信頼性と使用環境

デバイス・部品の選定では、故障のしにくさ(品質等級・実績)に加えて、使用環境への適合が業務システムにはない重要観点になります。屋外なら温度・湿度・防水、車載なら振動・衝撃、工場なら粉塵・ノイズ——環境条件に耐えられない部品は、スペック表上どれほど高性能でも選べません。OS・ミドルウェアの選定では、決められた時間内の応答を保証するリアルタイムOS(RTOS)が候補になります(リアルタイム処理の設計は第3章 3-1で本格的に扱います)。

混同注意(セーフティ⇔セキュリティ):セーフティは事故(意図しない危険)から人・モノを守ること、セキュリティは攻撃(意図した悪意)から情報・システムを守ること。IoT機器はネットにつながるため、両方が要件になります(ネットワークセキュリティは第2章)。

技能3:法令・規程・知的財産権を調査し、要件として設定する

シラバス案・技能の例③
システムに関連する法令,規程,知的財産権などを調査し,システムの要件として設定するスキル

組込み機器は物理的な製品として市場に出るため、ソフトウェア単体では意識が薄くなりがちな規制・権利の調査が、設計の必須工程になります。代表的な観点は次のとおりです。

  • 法令・規格への適合:無線通信を行う機器には電波に関する法規制、電気製品には安全に関する法規制・規格への適合が求められる。売る国・地域ごとに制度が異なるため、販売先の各国規制まで調査対象になる。
  • 業界の規程・標準:自動車・医療・鉄道など安全性が重視される業界には、機能安全などの業界標準・ガイドラインがあり、開発プロセス自体に要求が及ぶことがある。
  • 知的財産権:他社特許を侵害しない設計か(実装方式の変更で回避できるか)。また、組込みソフトで広く使われるOSS(オープンソースソフトウェア)のライセンス条件(ソースコードの開示義務の有無など)を守れるか。

重要なのはシラバス案の言い回しです——調査して終わりではなく「システムの要件として設定する」。つまり「◯◯の認証を取得すること」「ライセンス上、この部分に当該OSSを使用しないこと」のように、要件定義書に載る形に落とし込むところまでが技能3です。法令・知財の見落としは、完成後に製品を出荷できないという最悪の手戻りを生みます。

混同しやすい概念の整理

紛らわしいペア 違いの核心
組込みシステム ⇔ 汎用システム 組込み=機器専用・資源制約下で決まった仕事を確実に。汎用(PC・サーバ)=いろいろな用途に使える。設計の自由度と制約が根本的に違う
センサー ⇔ アクチュエーター センサー=測る(入力)。アクチュエーター=動かす(出力)。「測る→判断する→動かす」の両端
フェールセーフ ⇔ フールプルーフ フェールセーフ=故障時に安全側へ。フールプルーフ=誤操作をそもそもさせない。守る相手が「故障」か「人のミス」か
フェールソフト ⇔ フォールトトレランス フェールソフト=機能を縮小して継続。フォールトトレランス=冗長化で全機能を継続。継続のレベルが違う
セーフティ ⇔ セキュリティ セーフティ=事故から守る。セキュリティ=攻撃から守る。IoTでは両方が要件になる

確認クイズ(4問)

この節の理解度チェックです(当サイト独自の予想問題。公式の出題ではありません)。

問1|HW/SW分割

組込みシステムで、ある機能をソフトウェアではなく専用ハードウェアで実現する判断の根拠として、最も適切なものはどれか。




解説:ハードウェア実現の強みは速さと省電力(ウ)。ア・エは「変更のしやすさ」の話で、これはソフトウェア実現の強みです。イも通常はソフト寄りの根拠(回路開発は初期費が大きい)。要件のどれが厳しいかで置き場所を決めるのがHW/SW分割のトレードオフです(技能1)。

問2|安全設計

「制御装置が故障を検知したら、加熱を停止して装置を安全な状態に移行させる」という設計の考え方はどれか。




解説:故障時に安全側へ倒すのはフェールセーフです。誤操作をさせないならフールプルーフ、冗長化で全機能継続ならフォールトトレランス、縮小して動き続けるならフェールソフト。「守る相手(故障か誤操作か)」と「故障後どうするか(安全に止まるか・続けるか)」で仕分けます。

問3|セーフティとセキュリティ

IoT機器の設計における「セーフティ」と「セキュリティ」の説明として、最も適切なものはどれか。




解説:正解は。イは定義が逆です。IoT機器は物理的に動く(=事故のリスク)うえにネットにつながる(=攻撃のリスク)ため、セーフティとセキュリティの両方を要件化する必要があります。シラバス案が1-5でセーフティを、2章でネットワークセキュリティを挙げているのはこの構図です。

問4|法令・知財

組込みシステムの開発における法令・知的財産権の扱いとして、最も適切なものはどれか。




解説:シラバス案の技能の例③そのままで、設計段階で調査し「要件として設定する」のが正解(イ)。完成後に発覚すると出荷できない手戻りになります(ア)。OSSは無償でもライセンス条件(開示義務など)があり(ウは誤り)、販売先の国・地域ごとの規制適合も必要です(エは誤り)。

まとめ:小項目1-5で身につけること

  • 組込み・制御システムの骨格=測る(センサー)→判断する(ソフトウェア)→動かす(アクチュエーター)。IoTはこれがネットにつながった形。
  • HW/SW分割のトレードオフ:ハード=速い・省電力・変更困難/ソフト=柔軟・更新可能。要件(性能・電力・変更頻度・コスト・数量)から機能ごとに置き場所を決める(技能1)。
  • 安全設計の4用語:フェールセーフ(安全側へ)・フェールソフト(縮小継続)・フォールトトレランス(冗長化で全機能継続)・フールプルーフ(誤操作をさせない)。部品・OS選定は使用環境への適合が必須観点(技能2)。
  • セーフティ(事故から守る)とセキュリティ(攻撃から守る)は別物で、IoTでは両方が要件。
  • 法令・規格・知財(OSSライセンス含む)は設計段階で調査し「要件として設定」。見落としは出荷不能の手戻りに直結(技能3)。

これで第1章「システムアーキテクチャに関すること」の5節がすべてそろいました。1-1 業務要件 → 1-2 機能要件 → 1-3 非機能要件 → 1-4 クラウド → 1-5 組込みという流れを章ハブで俯瞰し直すと、章全体が「要件からアーキテクチャを決める」1本の物語になっていることが分かるはずです。

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出典(一次情報)

  • IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目B シラバス(案 Ver0.2)」大項目1・小項目1-5(2026年7月31日更新)[link]。本文中の「技能の例」引用は同シラバス案からの原文引用です。
  • IPA「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 出題範囲等の改定案 Ver.1.0」(2026年3月)

※試験名は仮称、内容は検討段階の案です。試験の形式・時間・配点・合格基準は未公表のため本記事では扱いません。旧区分(エンベデッドシステムスペシャリスト)との対応は当サイトの推測を含みます。技術解説(組込みシステムの構成、HW/SW分割、安全設計の用語など)は一般に確立した知識に基づく当サイトの解説で、シラバスの記載そのものではありません。確認クイズは当サイト独自の予想問題です。正式シラバス公開時に内容を更新します。

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