【PD-S教科書】1-3 非機能要件の定義を基礎から徹底解説|性能・品質・セキュリティ・運用保守・移行の5カテゴリと稼働率の読み方【シラバス案Ver0.2対応】

PD-S教科書 1-3 非機能要件の定義 プロフェッショナルデジタルスキル(システム)
本記事について:PD(システム)試験(仮称)科目B「シラバス(案 Ver0.2)」(IPA・2026年7月31日更新)を根拠に解説する教科書記事です。科目B(技能)の内容はVer0.1から変更ありません(当サイトでVer0.1とVer0.2の全文を突合して確認)。Ver0.2では新たに科目A-2(専門知識)の出題範囲の細目が公開されました。試験名は仮称、科目A-1(共通知識)・試験時間・出題数・配点・合格基準は未公表、内容は検討段階の「案」で今後変更の可能性があります。(最終更新:2026年7月31日/出典:IPA公式

この記事は、PD-S(システム)試験(仮称)科目B 第1章の3節目、小項目1-3「システム要件における非機能要件の定義(性能,品質,セキュリティなど)」の教科書です。1-1で業務要件、1-2で機能要件と来て、いよいよ要件定義の総仕上げ=「どれだけうまく動くか」を決める工程です。非機能要件は利用者が自分から語らない(暗黙の期待になりやすい)という厄介な性質があり、システム障害・性能トラブルの多くはここの見落としから生まれます。シラバス案の技能3つを全展開し、5カテゴリの中身と「稼働率99.9%」の読み方まで、前提知識ゼロから解説します。

この節の全体像 — なぜ非機能要件だけ「別の小項目」なのか

シラバス案は小項目1-3に「目標とする技能の例」を3つ挙げています。最初の2つ(収集・調整)は1-2と全く同じ文面で、3つ目が非機能要件の中身です。

技能1・2入口(1-2と共通) — 関係者から情報を収集・整理して要求をシステム要件として定義し、矛盾する要求を調整して総合的に取りまとめる。ただし非機能では「要求が言われない」という固有の難しさが加わる。
技能3中身:機能要件以外の要件の明確化 — 性能要件・品質要件・セキュリティ要件・運用・保守要件・移行要件という5つのカテゴリ(シラバス案の列挙)で、機能以外の要件を漏れなく定義する。

わざわざ機能要件(1-2)と小項目を分けているのは、両者で失敗のしかたが違うからです。機能要件の漏れは開発中・受入テストで「この機能がない」と発覚しやすいのに対し、非機能要件の漏れは本番稼働後に「遅い」「落ちる」「復旧できない」という形で爆発します。後から直すには設計そのものの見直し(アーキテクチャ変更)が必要になることが多く、手戻りコストが桁違いに大きい——だから独立した小項目として、定義スキルが問われるのです。

入口:非機能要件の収集・調整は何が難しいか(技能1・技能2)

シラバス案・技能の例①②(1-2と共通の文面)
関係者から情報を収集し,整理して,要求をシステム要件として定義するスキル矛盾する要求を調整し,個々の要求を総合的に取りまとめるスキル

難しさ①:非機能の要求は「言われない」

利用者は「見積書をPDF出力したい」(機能)は語りますが、「画面は3秒以内に開いてほしい」「年に数時間しか止まらないでほしい」とは、まず言いません。速い・安全・止まらないことは当たり前の暗黙の期待だからです。そこで非機能要件の収集は、聞き取りを待つのではなく、こちらから枠組みを当てて引き出すのが定石です。

  • カテゴリのチェックリストで総当たりする:後述の5カテゴリを1つずつ確認し、「決めていない項目」を潰す。
  • 現行システムの実績値から導く:「今の画面は平均2秒で開いている」なら、新システムがそれより遅ければ確実に不満が出る。現行実績が事実上の下限になる。
  • 業務特性から導く:「月末3日間に処理が集中する」「深夜はほぼ使われない」といった業務の形が、性能・稼働時間帯の要件を決める。

そして集めた要求は、1-2で学んだとおり検証可能な文(数値)にします。「十分速く」ではなく「通常時の画面応答は3秒以内、月末ピーク時でも5秒以内」。数値にできない非機能要件は、達成したかどうかを誰も判定できません。

難しさ②:非機能要件はトレードオフの塊

非機能要件の調整(技能2)が機能要件より難しいのは、要件同士とコストが正面からぶつかるからです。性能を上げればサーバ費用が上がる。セキュリティを固めれば利便性が下がる(ログイン手順が増える)。可用性を99.9%から99.99%に上げるだけで、冗長構成の追加により費用が跳ね上がる——。

調整の軸は「その水準を下回ったとき業務にいくらの損害が出るか」です。ECサイトが1時間止まれば売上が直接消えるので高可用性への投資が正当化できます。社内の月次集計ツールが半日止まっても翌日リカバリーできるなら、過剰な冗長化はコストの無駄です。業務影響とコストの均衡点を関係者と合意するのが、非機能要件における「調整」の実体です。
「すべての非機能要件を最高水準にする」という選択肢は実務でも試験でも誤りの定番です。業務要件(1-1)に照らして必要十分な水準を選ぶ——この根拠づけの筋が正解を分けます。

中身:非機能要件の5カテゴリを全部おさえる(技能3)

シラバス案・技能の例③
対象業務の業務内容を踏まえ,対象業務の業務要件を実現するために必要な,性能要件,品質要件,セキュリティ要件,運用・保守要件,移行要件など,機能要件以外の要件を明確化し,定義するスキル

シラバス案が列挙する5カテゴリを、1つずつ「何を決めるのか・代表的な項目・具体例」で展開します。

図1:非機能要件の5カテゴリ(シラバス案・技能の例③の分解)

非機能要件の5カテゴリ。性能要件(応答時間・処理量)、品質要件(可用性・信頼性・保守性)、セキュリティ要件(認証・アクセス制御・ログ)、運用・保守要件(監視・バックアップ・体制)、移行要件(移行期間・停止許容・データ移行)

① 性能要件 — 速さと量

システムの「速さ」と「さばける量」を定義します。代表的な指標は次の2つで、混同しやすいので注意してください。

応答時間(レスポンスタイム):1回の操作に対する返答の速さ。「検索ボタンを押してから結果表示まで3秒以内」。利用者1人の体感の指標。
スループット:単位時間あたりに処理できる量。「1時間に注文1万件を処理できる」。システム全体の処理能力の指標。

重要なのはピーク特性とセットで決めることです。平均値だけ決めても、月末・セール日・始業直後などの集中時に破綻します。「通常時◯秒、ピーク時(通常の3倍の同時利用)でも◯秒」のように条件付きで定義します。

② 品質要件 — 止まらないこと・壊れないこと・直せること

システムの「質」に関する要件で、中心になるのが可用性です。

可用性:使いたいときに使える度合い。代表指標が稼働率(全時間のうちシステムが動いている割合)。「稼働率99.9%以上、計画停止は月1回深夜2時間まで」。

稼働率の数字は直感が利きにくいので、年間の停止時間に換算して感覚を持っておきましょう(24時間365日運転=年間8,760時間として単純計算)。

図2:稼働率と年間停止時間の目安(24時間365日運転での単純計算)

稼働率と年間停止時間の目安。99%は年間約88時間停止、99.9%は年間約8.8時間停止、99.99%は年間約53分停止。9が1つ増えるごとに停止時間は10分の1になりコストは大きく増える

「9」が1つ増えるたびに許される停止時間は10分の1になり、実現コスト(冗長構成・自動フェイルオーバー等)は大きく跳ね上がります。ほかに品質要件には、障害の起きにくさ(信頼性)、直しやすさ・変更しやすさ(保守性・拡張性)などが含まれます。

③ セキュリティ要件 — 守り方を決める

「誰が・何に・どこまでアクセスできるか」を軸に定義します。代表項目:利用者の本人確認の方式(認証)、権限に応じた機能・データの制限(アクセス制御)、操作記録(ログ)の取得と保存期間、通信・保存データの暗号化、個人情報保護など関連法令への対応。業務で扱う情報の機密度が高いほど要件は厳しくなります。詳細な設計・技術は第2章(ネットワーク)や運用(2-3)でも扱うため、この段階では「何をどの水準で守るか」の要件化が仕事です。

④ 運用・保守要件 — 動かし続ける仕組み

稼働後の日常を定義します。代表項目:稼働時間帯(24時間365日か、平日日中のみか)、監視(何を監視し、異常時に誰へ通知するか)、バックアップ(頻度・保存世代・復旧手順)、障害対応の体制と目標復旧時間、定期メンテナンスの枠。1-1の技能6で決めた運用・保守の基本方針を、ここで検証可能な要件に具体化する関係です。

⑤ 移行要件 — 切り替えそのものの要件

忘れられがちですが、シラバス案は移行要件を明記しています。代表項目:移行に許される期間と業務停止の許容時間(「切替は連休中の48時間以内」)、データ移行の範囲と精度(「過去5年分の取引データを100%移行、それ以前は参照用アーカイブ」)、失敗時の切り戻し条件。1-1で選んだ移行方式(一斉・段階・並行)を、数値の要件に落とし込みます。

5カテゴリの覚え方:時間軸で並んでいると捉えると整理しやすいです。動いているときの要件(性能・品質・セキュリティ)→動かし続ける要件(運用・保守)→動き始める要件(移行)。シラバス案の列挙順そのままです。

混同しやすい概念の整理

紛らわしいペア 違いの核心
機能要件 ⇔ 非機能要件 機能=システムが何をするか(1-2)。非機能=どれだけうまく動くか(本節)。「ログイン機能がある」は機能、「ログインは2秒以内・二要素認証」は非機能
応答時間 ⇔ スループット 応答時間=1回の操作の速さ(利用者の体感)。スループット=単位時間の処理量(システムの能力)。片方だけ良くても成立しない
稼働率 ⇔ 目標復旧時間 稼働率=動いている割合(結果の指標)。目標復旧時間=止まってから復旧までの許容時間。稼働率が高くても1回の長時間停止で業務が致命傷なら復旧時間の要件が別に要る
運用・保守要件 ⇔ 移行要件 運用・保守=稼働後ずっと続く日常の要件。移行=切り替え時だけの一時的な要件。どちらも「稼働後・稼働前は決めなくていい」という誤解が事故のもと
要求の調整(機能) ⇔ 要求の調整(非機能) 文面は同じ技能でも、非機能の調整は水準とコストの均衡点探し。「業務影響がいくらか」が判断軸になる

確認クイズ(4問)

この節の理解度チェックです(当サイト独自の予想問題。公式の出題ではありません)。

問1|仕分け

次の要件のうち、非機能要件に該当しないものはどれか。




解説:ウは「システムが何をするか」=機能要件です。アは性能要件、イはセキュリティ要件(ログ)、エは移行要件で、いずれも非機能要件の5カテゴリに含まれます。エのような移行要件を「非機能」と気づけるかがこの問題の狙いです。

問2|稼働率

24時間365日運転のシステムで稼働率99.9%を要件とした場合、年間に許容される停止時間の目安はどれか(1年=8,760時間として単純計算)。




解説:停止が許されるのは全体の0.1%なので、8,760時間×0.001=8.76時間(約8.8時間)です。アの約53分は99.99%、ウの約88時間は99%の場合。「9が1つ増えると停止時間は10分の1、コストは大幅増」という感覚をセットで覚えてください。

問3|性能指標

「1時間あたりに処理できる注文件数」を表す性能指標として、最も適切なものはどれか。




解説:単位時間あたりの処理スループットです。応答時間は1回の操作の速さ(利用者の体感)、稼働率は動いている割合(可用性)、目標復旧時間は障害から復旧までの許容時間。「量ならスループット、1回の速さなら応答時間」で仕分けます。

問4|収集のアプローチ

非機能要件の収集の進め方として、最も適切なものはどれか。




解説:非機能要件は暗黙の期待になりやすく、待っていては出てきません(ア)。かといって全項目最高水準(イ)はコストの均衡を無視した誤り。曖昧な表現のまま(ウ)では達成判定ができません。枠組みで引き出し、根拠を持って数値化するエが正解です(技能1・3)。

まとめ:小項目1-3で身につけること

  • 非機能要件=「どれだけうまく動くか」。漏れは本番稼働後に爆発し、手戻りコストが機能の漏れより桁違いに大きい。
  • 非機能の要求は言われない(暗黙の期待)。カテゴリの総当たり・現行実績値・業務特性でこちらから引き出し、検証可能な数値で定義する(技能1)。
  • 調整の軸は業務影響とコストの均衡。全項目最高水準は誤り。業務要件に照らした必要十分な水準を合意する(技能2)。
  • 5カテゴリ=性能(応答時間・スループット+ピーク特性)/品質(可用性=稼働率など)/セキュリティ(認証・アクセス制御・ログ)/運用・保守(監視・バックアップ・体制)/移行(期間・停止許容・データ移行)(技能3)。
  • 稼働率の感覚:99%=年約88時間、99.9%=年約8.8時間、99.99%=年約53分の停止。9が増えるほどコストは跳ね上がる。

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出典(一次情報)

  • IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目B シラバス(案 Ver0.2)」大項目1・小項目1-3(2026年7月31日更新)[link]。本文中の「技能の例」引用は同シラバス案からの原文引用です。
  • IPA「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 出題範囲等の改定案 Ver.1.0」(2026年3月)

※試験名は仮称、内容は検討段階の案です。試験の形式・時間・配点・合格基準は未公表のため本記事では扱いません。技術解説(性能指標、稼働率の換算、収集の進め方など)は一般に確立した知識に基づく当サイトの解説で、シラバスの記載そのものではありません。稼働率の換算値は24時間365日運転(年8,760時間)での単純計算です。確認クイズは当サイト独自の予想問題です。正式シラバス公開時に内容を更新します。

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