この記事は、PD-S(システム)試験(仮称)科目B 第2章の2節目、小項目2-2「インターネット,クラウドサービス,及び各種ネットワークサービスの選定とオンプレミスネットワークを組み合わせた,ネットワーク基盤の設計(冗長化含む),構築,導入」の教科書です。2-1で手に入れた技術の道具箱を使って、いよいよ実際にネットワーク基盤を設計し、作り、導入する工程を扱います。小項目名に「冗長化含む」とわざわざ書かれているのがこの節の急所——止まらないネットワークをどう設計するかです。技能の例7つを全展開し、単一障害点の考え方から構成案の比較評価まで、前提知識ゼロから解説します。
この節の全体像 — 7つの技能は「要求→設計→構築」の3フェーズ
図1:小項目2-2の全体像 — 要求→設計→構築・移行の3フェーズ
フェーズ①:要求を固める(技能1・技能2)
業務要件や現行ネットワークの課題などを評価し,新たなネットワーク基盤の要求事項を明らかにするスキル
ネットワークの要求事項は、大きく2つの源から出てきます。
- 業務要件から:「全拠点でWeb会議を常用する」→帯域と遅延の要件。「クラウドの基幹システムに全社員がアクセスする」→クラウド接続の要件(2-1 技能7)。「工場ラインは1分の停止も許されない」→可用性の要件。
- 現行の課題から:「月末に回線が詰まる」「機器が保守切れ」「拠点追加のたびに設定が場当たり」——現行ネットワークの実測データ(トラフィック量・障害履歴)と構成の棚卸しが、要求の根拠になります。
業務システムの開発などに際し,ネットワーク基盤への影響を分析し必要な対応を行うスキル
見落とされがちな技能です。新しい業務システムが載れば、ネットワークには新しい負荷と新しい通信経路が生まれます。「新システムは画像データを大量に扱う→拠点回線の帯域は足りるか」「外部の決済サービスと接続する→ファイアウォールの許可設定と経路の追加が要る」。システム開発側とネットワーク側がお互いを知らないまま進むと、リリース直前に「つながらない・遅い」が発覚します。開発計画の段階でネットワークへの影響を分析し、先回りして対応するのがこの技能です。
フェーズ②:設計する(技能3〜6)
ネットワーク関連技術を活用し,要件を満たすネットワーク基盤を設計するスキル
設計の基本形は「要件→2-1の道具箱から技術を選ぶ」です。拠点間を結ぶならVPNか閉域網か、社内の分離はネットワーク仮想化で、リモートアクセスはゼロトラスト型で——というように、要件の1つひとつに使う技術を対応づけて全体構成図に落としていきます。
技能4:冗長化 — 単一障害点をなくす信頼性設計
冗長化や障害・災害時の復旧手段を組み込んだ,ネットワーク基盤の信頼性設計を行うスキル
ネットワークの冗長化は、どの層で予備を持つかで整理します。
図2:ネットワーク冗長化の3つのレベル — どこが壊れても通信を継続する
- 機器の冗長化:ルーターなどの中核機器を2台構成にし、故障時に自動で切り替える。
- 回線の冗長化:回線を2本契約する。このとき別々の通信事業者・別々の物理経路にするのが要点(後述の落とし穴参照)。
- 拠点・経路の冗長化:データセンター自体を地理的に離れた2か所に置くなど、災害級の事象に備える。障害時にどう復旧するか(自動切替か、手順書による手動切替か、目標復旧時間はいくつか)まで設計に含める。
技能5:キャリア・ISP・クラウド事業者の評価・選定・統合
通信キャリア・ISP・クラウド事業者などの多様なサービスを評価・選定し,それらを統合したネットワーク基盤を設計するスキル
現代のネットワーク基盤は、自前の機器+キャリアの回線+ISPの接続+クラウド事業者の閉域接続サービス——というように複数事業者のサービスの組み合わせで成立します。評価の観点は、提供エリア・帯域・品質保証の有無(保証型かベストエフォート型か)・障害時のサポート体制・料金。そして選んだ部品を1つの絵(全体構成)に統合して破綻がないかを確認するのがこの技能です。
技能6:複数の構成案を比較評価し、最適案を選ぶ
拡張性と経済性を両立するために,複数の構成案について費用対効果・実現可能性を比較評価し,最適な設計案を選定するスキル
設計案は1つ作って終わりではなく、複数案を比較して選ぶのがプロの仕事だとシラバス案は明言しています。典型は松竹梅の3案比較です。
| 観点 | 比較で見ること |
|---|---|
| 費用対効果 | 初期費+数年分の運用費(回線料・保守料)の総額と、得られる帯域・可用性が見合うか |
| 実現可能性 | 納期に間に合うか・その拠点で回線が引けるか・運用できる体制/スキルがあるか |
| 拡張性 | 拠点・利用者・トラフィックが増えたとき、作り直しなしに増強できるか |
| 経済性 | 過剰品質になっていないか。要件(1-3で決めた水準)を超える部分はコスト削減の候補 |
フェーズ③:構築・移行の実施計画(技能7)
ネットワーク基盤の構築や移行について,最適な実施計画を立案しステークホルダと連携して実施するスキル
ネットワークの切り替えには、業務システムの移行(1-1 技能6)と同じ考え方が使えます。ネットワークならではの計画ポイントは次のとおりです。
- 止められる時間帯の確保:ネットワークは全システムの土台なので、切替中はその上のすべてが止まる。業務影響が最小の時間帯(休日夜間など)を関係部門と合意する。
- 段階切替:拠点ごと・フロアごとに順次切り替え、問題を小さく発見する(段階移行の考え方)。
- 切り戻し計画:切替がうまくいかなかったときに旧構成へ戻す手順と判断基準(何時までに疎通しなければ戻す等)を事前に決める。
- ステークホルダ連携:利用部門への周知、キャリア・ISPの工事日程、ビル設備(配線・電源)の調整——社外を含む多者の日程を束ねるのが実施計画の実体。
混同しやすい概念の整理
| 紛らわしいペア | 違いの核心 |
|---|---|
| 冗長化 ⇔ バックアップ | 冗長化=予備を常時並走させ、故障時も止めない(可用性の技術)。バックアップ=データの控えを取り、失われたら復元する(復旧の技術)。守る対象が「稼働」か「データ」か |
| 単一障害点(SPOF) ⇔ ボトルネック | SPOF=壊れると全体が止まる点(信頼性の問題)。ボトルネック=そこで性能が頭打ちになる点(性能の問題)。同じ場所が両方を兼ねることもある |
| 通信キャリア ⇔ ISP | キャリア=回線(通信路)の提供者。ISP=その上のインターネット接続の提供者。冗長化ではキャリア(物理経路)レベルで分けることに意味がある |
| 保証型 ⇔ ベストエフォート型 | 保証型=帯域などの品質を契約で保証(高価)。ベストエフォート=努力目標で保証なし(安価)。要件の重要度で使い分ける |
| 拡張性 ⇔ 経済性 | 将来の増強余地 ⇔ いまのコスト最小化。トレードオフの関係にあり、両立点を比較評価で探すのが技能6 |
確認クイズ(4問)
この節の理解度チェックです(当サイト独自の予想問題。公式の出題ではありません)。
単一障害点(SPOF)の説明として、最も適切なものはどれか。
本社のインターネット回線を冗長化したい。信頼性を最も高められる構成はどれか。
ネットワーク基盤の設計案を選定する進め方として、シラバス案の趣旨に最も合うものはどれか。
新しい業務システムの導入プロジェクトにおける、ネットワーク基盤への対応として最も適切なものはどれか。
まとめ:小項目2-2で身につけること
- 7つの技能=要求を固める(現行課題+業務要件、開発の影響分析)→設計する(技術適用・冗長化・事業者選定・案の比較)→構築・移行する(実施計画)の3フェーズ。第1章と相似形。
- 信頼性設計の第一歩は単一障害点(SPOF)の洗い出し。冗長化は機器・回線・拠点の3レベルで考え、「本当に共倒れしないか」(事業者・物理経路・電源の分離)まで疑う。
- 基盤は複数事業者のサービスの統合:キャリア(回線)とISP(接続)の役割を区別し、保証型/ベストエフォート型を要件で使い分ける。
- 設計案は複数案を費用対効果・実現可能性で比較評価し、拡張性と経済性の両立点を選ぶ。初期費だけでなく数年の総コストで見る。
- 切替計画は止められる時間帯・段階切替・切り戻し基準・多者との日程調整が柱。ネットワークは全システムの土台なので、切替の影響は常に全体に及ぶ。
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出典(一次情報)
- IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目B シラバス(案 Ver0.2)」大項目2・小項目2-2(2026年7月31日更新)[link]。本文中の「技能の例」引用は同シラバス案からの原文引用です。
- IPA「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 出題範囲等の改定案 Ver.1.0」(2026年3月)
※試験名は仮称、内容は検討段階の案です。試験の形式・時間・配点・合格基準は未公表のため本記事では扱いません。技術解説(冗長化・SPOF・事業者選定・比較評価の観点など)は一般に確立した知識に基づく当サイトの解説で、シラバスの記載そのものではありません。確認クイズは当サイト独自の予想問題です。正式シラバス公開時に内容を更新します。

