この記事は、PD-S(システム)試験(仮称)科目B 第2章の最終節、小項目2-3「ネットワーク基盤の運用,トラブル対応(原因特定・対処),保守及び改善」の教科書です。2-2で作った基盤を、止めずに動かし続け、壊れたら素早く直し、古くなる前に作り替える——ネットワークの一生に付き合う工程です。小項目名に「原因特定・対処」とわざわざ書かれているとおり、この節の花形は障害対応(トラブルシューティング)。技能の例6つを全展開し、変更管理から障害切り分けの型、IDS/IPS、ライフサイクル改善まで、前提知識ゼロから解説します。
この節の全体像 — 6つの技能は「平時・有事・将来」の3分類
図1:小項目2-3の全体像 — 平時・有事・将来の3分類
平時①:構成管理と変更管理(技能1)
ネットワーク基盤の継続性・保守性を維持するために,ネットワーク構成を把握し変更管理するスキル
なぜこれが技能の筆頭に来るのか。ネットワーク障害の定番原因が「直前の変更」だからです。変更が記録されていれば、障害発生時に「昨夜の設定変更を戻す」という最短の復旧経路が使えます。記録がなければ、全設定をゼロから疑う羽目になります。つまり構成管理・変更管理は、平時の帳簿仕事に見えて、実は有事の初動速度を決める投資です。
平時②:監視の設計 — 何を・どう見て・いつ動くか(技能2)
性能を維持し障害を未然に防ぐために,監視方法・判定基準などを策定し,継続的に分析し必要な対策を講じるスキル
監視は「入れて終わり」ではなく設計するものです。設計の3要素をおさえます。
- 何を見るか(監視項目):①死活監視=機器・回線が生きているか(応答確認)。②性能監視=帯域使用率・遅延・エラー率などの数値。③ログ監視=機器が出すイベント記録から異常の兆候を拾う。
- どこからが異常か(判定基準・しきい値):「帯域使用率が80%を超えたら警告、95%で重大」のように、数値の線を決めて初めて自動通知が機能する。線が甘いと障害を見逃し、厳しすぎると通知が鳴りやまず(オオカミ少年化)本物を見落とす。
- 誰にどう知らせ、どう動くか:通知先・エスカレーション(一次対応で解決しないときの引き上げ先)・対応手順書をセットで整備する。
シラバス案の後半「継続的に分析し必要な対策を講じる」も重要です。監視データを溜めて傾向を見る——「帯域使用率が毎月3%ずつ上がっている→半年後に頭打ちになる→今のうちに増強を計画する」。これが「障害を未然に防ぐ」の実体で、単発のアラート対応とは別の技能です。
有事①:障害対応の型 — 検知から再発防止まで(技能3)
障害の早期発見と影響範囲極小化のために,迅速に障害箇所を特定し復旧し,原因の分析と再発防止を行うスキル
この節の花形です。障害対応は次の5ステップの型で整理できます。
図2:障害対応の5ステップ — 復旧が先、原因究明は後
- 検知:監視の通知または利用者の申告。まず影響範囲(全社か・1拠点か・特定システムだけか)を把握する。影響範囲は次の切り分けの最大のヒントでもある。
- 切り分け:障害箇所を絞り込む。定石は2つ。範囲で絞る——全拠点ダメなら中枢(データセンター・共通回線)、1拠点だけならその拠点内を疑う。層で絞る——2-1のレイヤを下から順に、物理(ケーブル・電源)→ネットワーク(IPで届くか)→その上のサービス、と確認する。行き当たりばったりに触らず、正常な部分と異常な部分の境目を探すのが切り分けの本質。
- 復旧:根本原因が分からなくても、暫定対応(予備系への切替・機器再起動・直前の変更の切り戻し)で業務を再開させる。影響範囲の極小化が最優先で、原因の完全究明は後回しでよい——ただし後の分析のためにログ・状態の証跡を保全してから対応する。
- 原因分析:復旧後に、証跡から根本原因を特定する。「再起動したら直った(原因不明)」で closing すると必ず再発する。
- 再発防止:恒久対策(設計変更・部品交換)に加え、検知を早める監視の追加・手順書の改善まで含めて完了。
有事②:セキュリティの維持 — IDS・IPS・診断(技能4)
セキュリティを維持するために,不正侵入検知・防御・診断ツールなどを活用するスキル
2-1で設計したセキュリティ(境界防御・ゼロトラスト)を、運用の現場で維持し続けるための道具立てです。
セキュリティは「作ったときが最強、あとは劣化していく」世界です。新しい攻撃手法・新しい脆弱性が日々見つかるため、検知(IDS/IPS)の判定ルール更新と、定期的な診断・修正のサイクルを運用に組み込むことがこの技能の中身です。
平時③と将来:保守計画とライフサイクル最適化(技能5・技能6)
ネットワーク基盤の適切な保守計画を立案し,利用者への周知を含め計画どおり実施するスキル
保守=壊れる前の手入れです。ソフトウェアの更新適用、機器の保守契約と交換部品の確保、保守期限(サポート終了)を迎える機器の把握と計画的な更改、そして計画停止を伴う作業の利用者への事前周知。シラバス案が「利用者への周知を含め」と明記しているのは、技術作業として完璧でも予告なしに止めれば業務事故だからです。
ネットワーク基盤のライフサイクル最適化のために,現状の問題点と将来の所要を評価し,最新の技術・サービス動向を踏まえた改善案・移行計画を立案するスキル
ネットワークにも寿命があります。運用で溜めたデータ(性能の傾向・障害の頻度・保守費の推移)と、将来の所要(拠点計画・クラウド化の進展)、そして技術動向(新しい規格・サービス)を突き合わせ、「そろそろ作り替えるべきか、どう作り替えるか」の改善案・移行計画を立てる——ここで2-2(設計・構築)に戻り、第2章が1つのサイクルとして閉じます。運用は設計の終点ではなく、次の設計の起点です。
混同しやすい概念の整理
| 紛らわしいペア | 違いの核心 |
|---|---|
| 構成管理 ⇔ 変更管理 | 構成管理=現状を正確に把握し続ける(台帳・構成図)。変更管理=変更を手続きに乗せる(申請→承認→記録)。両輪で「実物と記録の一致」を守る |
| 死活監視 ⇔ 性能監視 | 死活=生きているか(応答の有無)。性能=健康か(帯域・遅延などの数値としきい値)。生きていても遅ければ業務は困る |
| IDS ⇔ IPS | IDS=検知して知らせるまで。IPS=検知して遮断するまで。IPSは誤検知が正常業務を止めるリスクと隣り合わせ |
| 暫定対応 ⇔ 恒久対策 | 暫定=とにかく業務を再開させる応急処置(切替・切り戻し)。恒久=根本原因を潰す再発防止。暫定で閉じて恒久を省くと必ず再発する |
| 保守 ⇔ 改善 | 保守=今の基盤を維持する活動(更新適用・部品交換・計画停止)。改善=次の基盤へ移る活動(ライフサイクル評価・移行計画)。技能5と技能6の分担 |
確認クイズ(4問)
この節の理解度チェックです(当サイト独自の予想問題。公式の出題ではありません)。
全社のネットワークが停止する障害が発生した。対応の進め方として最も適切なものはどれか。
IPS(不正侵入防御システム)がIDS(不正侵入検知システム)と異なる点として、最も適切なものはどれか。
ネットワークの変更管理を徹底する目的として、最も適切なものはどれか。
「障害を未然に防ぐ」ための監視の活用として、最も適切なものはどれか。
まとめ:小項目2-3で身につけること
- 6つの技能=平時(構成・変更管理/監視/保守計画)・有事(障害対応/セキュリティ維持)・将来(ライフサイクル最適化)の3分類。
- 構成管理・変更管理は有事の初動速度を決める投資。障害の定番原因は「直前の変更」であり、記録があれば切り戻しが最短の復旧経路になる。
- 監視は設計するもの:監視項目(死活・性能・ログ)×判定基準(しきい値)×通知と対応体制。傾向分析による先回りが「未然防止」の実体。
- 障害対応の型=検知→切り分け(範囲と層で絞る)→証跡保全のうえ暫定復旧→原因分析→再発防止。復旧が先、原因究明は後。原因不明のまま閉じない。
- IDS=検知、IPS=遮断まで。セキュリティは劣化するので、ルール更新と定期診断のサイクルを運用に組み込む。
- 保守は利用者への周知まで含めて計画どおりに。運用データは次の設計(2-2)の入力になり、第2章はサイクルとして閉じる。
これで第2章「ネットワークに関すること」の3節がすべてそろいました。2-1 技術の道具箱 → 2-2 設計・構築 → 2-3 運用・改善という、ネットワークの一生を貫く1本の流れです。
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出典(一次情報)
- IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目B シラバス(案 Ver0.2)」大項目2・小項目2-3(2026年7月31日更新)[link]。本文中の「技能の例」引用は同シラバス案からの原文引用です。
- IPA「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 出題範囲等の改定案 Ver.1.0」(2026年3月)
※試験名は仮称、内容は検討段階の案です。試験の形式・時間・配点・合格基準は未公表のため本記事では扱いません。技術解説(構成/変更管理、監視設計、障害対応の型、IDS/IPSなど)は一般に確立した知識に基づく当サイトの解説で、シラバスの記載そのものではありません。確認クイズは当サイト独自の予想問題です。正式シラバス公開時に内容を更新します。

