【PD-S教科書】1-4 クラウド活用のシステムアーキテクチャ設計を基礎から徹底解説|IaaS/PaaS/SaaS・マイクロサービス・リフト&シフト【シラバス案Ver0.2対応】

PD-S教科書 1-4 クラウド活用のアーキテクチャ設計 プロフェッショナルデジタルスキル(システム)
本記事について:PD(システム)試験(仮称)科目B「シラバス(案 Ver0.2)」(IPA・2026年7月31日更新)を根拠に解説する教科書記事です。科目B(技能)の内容はVer0.1から変更ありません(当サイトでVer0.1とVer0.2の全文を突合して確認)。Ver0.2では新たに科目A-2(専門知識)の出題範囲の細目が公開されました。試験名は仮称、科目A-1(共通知識)・試験時間・出題数・配点・合格基準は未公表、内容は検討段階の「案」で今後変更の可能性があります。(最終更新:2026年7月31日/出典:IPA公式

この記事は、PD-S(システム)試験(仮称)科目B 第1章の4節目、小項目1-4「クラウドサービスの活用,マイクロサービス化,仮想化,マイグレーションなどを考慮したシステムアーキテクチャ設計」の教科書です。1-1の技能5で「システム方式(アーキテクチャ)の策定はトレードオフの意思決定」と学びました。本節はそのクラウド前提の各論です。旧制度の試験ではクラウドはまだ「トピックの1つ」でしたが、新シラバス案では独立した小項目に昇格しており、新試験の性格をよく表す領域です。技能の例4つを全展開し、IaaS/PaaS/SaaSの区別からマイクロサービス、リフト&シフト、クラウド運用の落とし穴まで、前提知識ゼロから解説します。

この節の全体像 — 「設計する」だけでなく「提案し、合意を得て、運用する」まで

シラバス案は小項目1-4に「目標とする技能の例」を4つ挙げています。並べてみると、単なる設計技術ではなくクラウド活用のライフサイクル全体をカバーしていることが分かります。

技能1設計・運用する — 運用コスト・信頼性・パフォーマンスを最適化した上で、マイクロサービスや仮想環境などクラウドサービスを活用したアーキテクチャを設計し運用する。
技能2提案する — 最新のクラウド技術動向を把握し、モダナイゼーション(近代化)やマイグレーション(移行)を提案する。
技能3合意を得る — システムの将来像を見据え、オンプレミスのクラウドリフト・クラウドシフトをステークホルダに説明し合意を得る。
技能4運用課題を解決する — クラウド活用システムの運用における課題・問題点を調査し、解決する。
「説明し合意を得る」「提案する」という言葉が技能に明記されている点に注目してください。技術を知っているだけでは足りず、経営層・利用部門に費用対効果とリスクを説明して意思決定させるところまでがこの小項目の技能です。ケース問題では「技術的に最善」より「関係者に説明可能で合意できる」選択肢が正解筋になります。

前提知識①:クラウドとは何か — IaaS・PaaS・SaaSの責任範囲

オンプレミス:サーバなどの設備を自社で保有・設置・運用する形態。初期投資が大きいが、構成の自由度は最大。
クラウドサービス(クラウドコンピューティング):サーバ・ストレージ・ソフトウェアなどのIT資源を、ネットワーク越しに必要な分だけ利用し、使った分に応じて支払う形態。自前で持つ代わりに「借りる」。

クラウドは「どこまで借りるか」で3つのサービスモデルに大別されます。下の層(設備)から上の層(アプリ)のどこまでを事業者に任せるかという積み木で理解するのが定番です。

図1:IaaS・PaaS・SaaS — どこまで事業者に任せるか(責任範囲の違い)

オンプレミス・IaaS・PaaS・SaaSの責任範囲の比較。オンプレミスは設備からアプリまですべて自分で管理。IaaSはサーバなどインフラを借り、OSより上を自分で管理。PaaSは実行環境まで借り、アプリとデータだけ自分で管理。SaaSはアプリまで借りて利用するだけ

モデル 借りる範囲 自分で管理する範囲 例えるなら
IaaS(Infrastructure as a Service) サーバ・ストレージ・ネットワークなどのインフラ OS・ミドルウェア・アプリ・データ 更地と建物の骨組みを借りて、内装は全部自分でやる
PaaS(Platform as a Service) アプリの実行環境(OS・ミドルウェアまで) アプリとデータ 厨房設備つきの店舗を借りて、料理だけ自分で作る
SaaS(Software as a Service) アプリケーションそのもの データと利用方法(設定) できあがった料理を注文して食べる

下に行くほど自由度が高く運用負担が重い、上に行くほど楽だが業務をサービスの仕様に合わせる必要がある——この自由度と運用負担のトレードオフが、あらゆるクラウド設計判断の土台です。

前提知識②:仮想化とコンテナ — クラウドを支える土台技術

仮想化:1台の物理サーバの上に、ソフトウェアで複数の仮想サーバ(仮想マシン)を作り出す技術。それぞれが独立したOSを持ち、別々のマシンのように動く。物理サーバの能力を無駄なく使え、サーバの追加・複製がソフトウェア操作でできる。
コンテナ:OSは1つを共有したまま、アプリの実行環境だけを軽量な箱(コンテナ)として隔離する技術。仮想マシンよりも起動が速く軽いため、小さなサービスを大量に動かす構成(後述のマイクロサービス)と相性が良い。

クラウド事業者が「サーバを数分で用意できる」のは、この仮想化技術で計算資源をソフトウェア的に切り出しているからです。シラバス案の小項目名にある「仮想化」は、クラウド活用アーキテクチャの前提技術としておさえておきましょう(ネットワークの仮想化は第2章で扱います)。

技能1:クラウドを活用したアーキテクチャを設計・運用する

シラバス案・技能の例①
システム要件や特性を踏まえて,運用コスト,信頼性,パフォーマンスを最適化した上で,マイクロサービスや仮想環境などのクラウドサービスを活用したシステムアーキテクチャを設計し運用するスキル

この技能の中心概念がマイクロサービスです。従来型との対比で理解します。

モノリシックアーキテクチャ:システム全体を1つの大きなアプリケーションとして作る構成。構造が単純で作り始めやすいが、一部の変更でも全体のビルド・テスト・再リリースが必要になり、大きくなるほど改修が重くなる。
マイクロサービスアーキテクチャ:システムを機能ごとの小さな独立したサービス(例:注文サービス、在庫サービス、決済サービス)に分割し、互いにAPIで連携させる構成。サービスごとに独立して開発・変更・スケールできる。
観点 モノリシック マイクロサービス
変更・リリース 一部の修正でも全体を再リリース サービス単位で独立してリリース可能
性能の増強 全体をまとめて増強(無駄が出やすい) 負荷の高いサービスだけ増強できる
障害の影響 1か所の障害が全体停止につながりやすい 設計次第で該当サービスのみに限定できる
難しさ 構造が単純で把握しやすい サービス間連携・データ整合・監視の設計が複雑
向くケース 小規模・変更頻度が低いシステム 大規模・頻繁に更新し部分ごとに負荷が違うシステム
ここが技能1の核心:シラバス案は「マイクロサービスを使うスキル」ではなく「運用コスト,信頼性,パフォーマンスを最適化した上で」設計するスキルと書いています。つまりマイクロサービスは万能の正解ではなく、複雑さという代償を払ってでも独立性が欲しいときに選ぶ手段です。小規模システムへの過剰適用はかえって運用コストを増やします。要件から方式を選ぶ——1-1から一貫した判断軸です。

技能2・技能3:モダナイゼーションを提案し、リフト&シフトの合意を得る

シラバス案・技能の例②
最新のクラウドサービスの技術動向を把握し,クラウドのサービスを活用したモダナイゼーションやマイグレーションを提案するスキル
シラバス案・技能の例③
システムの将来像を見据え,オンプレミスシステムのクラウドリフト・クラウドシフトの提案をステークホルダに説明し合意を得るスキル
マイグレーション:システムを別の環境へ移行すること。ここでは主にオンプレミスからクラウドへの移行を指す。
モダナイゼーション:老朽化したシステムを、現代の技術・アーキテクチャで作り直し・近代化すること。単なる引っ越し(マイグレーション)に対し、中身の刷新まで踏み込む。

そして移行の進め方を表すのがリフトとシフトです。

図2:クラウドリフトとクラウドシフト — 段階的なクラウド移行の定石

クラウド移行の段階図。オンプレミスからクラウドリフト(構成を変えずにそのままクラウドへ移す)、その後クラウドシフト(クラウドの利点を活かす構成へ作り替える)へ進む。リフトは早く低リスク、シフトでコスト効率と拡張性を最大化

クラウドリフト:既存システムの構成をほぼ変えずにそのままクラウド上へ移すこと。早く・低リスクで移行できるが、クラウドの利点(従量課金・自動拡張)を活かしきれない。
クラウドシフト:クラウドの特性に合わせてシステムを作り替えること(PaaSの活用、マイクロサービス化など)。効果は大きいが、改修コストと期間がかかる。

定石は「まずリフトで移し、その後シフトで最適化する」二段階です。一気に作り替えようとすると移行と刷新のリスクが同時に来るため、段階を分けてリスクを分散します。

合意形成(技能3)の場面では、経営層は「で、いくら安くなるの?」と聞いてきます。オンプレの設備更新費・保守費と、クラウドの月額費用・移行費用を数年スパンの総コストで比較し、さらに「繁忙期だけサーバを増やせる」「災害対策サイトを安く持てる」といった金額化しにくい利点と、通信費・撤退時のデータ移出などの新コストを併せて説明する——これが「ステークホルダに説明し合意を得る」の実体です。クラウド化が常に安くなるとは限らないことを正直に扱うのが、信頼される提案の条件です。

技能4:クラウド運用の課題を調査し、解決する

シラバス案・技能の例④
クラウドサービスを活用したシステム運用における課題や問題点を調査し,解決するスキル

クラウドは「移したら終わり」ではなく、運用してみて初めて出会う課題があります。代表的なものをおさえましょう。

  • コストの膨張:従量課金は便利な反面、使い過ぎ・消し忘れ・過剰スペックがそのまま請求に跳ね返る。リソースの棚卸しと利用状況の継続的な監視・見直しが必須。
  • 責任分界の理解:クラウドでは「事業者が守る範囲」と「利用者が守る範囲」が分かれる(責任共有の考え方)。設備の物理的な安全は事業者側でも、アクセス権限の設定やデータの管理は利用者の責任。「クラウドだから安全」ではない。
  • 設定ミスによる事故:ストレージの公開設定ミス・過剰な権限付与など、利用者側の設定不備は情報漏えいの典型的な原因。設定の点検を運用に組み込む。
  • 性能・障害への備え:クラウド側の障害や仕様変更は利用者にはコントロールできない。重要システムでは冗長構成や代替手段を設計しておく。
技能4は「調査し,解決する」まで含みます。「コストが想定を超えた→原因を調査(どのリソースが・なぜ)→解決策(不要リソース削除・自動停止・構成見直し)」という問題解決の筋道で答えられるようにしておきましょう。

混同しやすい概念の整理

紛らわしいペア 違いの核心
IaaS ⇔ PaaS ⇔ SaaS 借りる範囲の違い。インフラだけ=IaaS、実行環境まで=PaaS、アプリまで=SaaS。下ほど自由で重い、上ほど楽で制約あり
クラウドリフト ⇔ クラウドシフト リフト=構成を変えずに移す(早い・低リスク・効果限定)。シフト=クラウドに合わせて作り替える(コスト・期間がかかるが効果大)。定石は リフト→シフト の二段階
マイグレーション ⇔ モダナイゼーション マイグレーション=引っ越し(環境の移行)。モダナイゼーション=建て替え(技術・構造の刷新)。リフトは前者寄り、シフトは後者寄り
仮想マシン ⇔ コンテナ 仮想マシン=OSごと丸ごと隔離(重いが独立性高い)。コンテナ=OSを共有して実行環境だけ隔離(軽く速い)
モノリシック ⇔ マイクロサービス 1つの大きなアプリ ⇔ 独立した小さなサービスの集合。大規模・高頻度更新ならマイクロサービスが活きるが、複雑さのコストを常に払う

確認クイズ(4問)

この節の理解度チェックです(当サイト独自の予想問題。公式の出題ではありません)。

問1|サービスモデル

クラウド事業者からアプリケーションの実行環境(OS・ミドルウェアまで)の提供を受け、自社ではアプリケーションとデータだけを管理する形態はどれか。




解説:実行環境(プラットフォーム)まで借りてアプリとデータだけ自分で管理するのはPaaSです。インフラだけ借りてOSから自分で管理するならIaaS、アプリまで借りて利用するだけならSaaS。「どこまで借りるか」の積み木で仕分けます。

問2|リフトとシフト

クラウドリフトの説明として、最も適切なものはどれか。




解説:リフト=構成を変えずに持ち上げて移すこと(ウ)。アはクラウドシフトの説明です。定石は「まずリフト(早い・低リスク)→その後シフト(クラウドの利点を最大化)」の二段階。両者の役割の違いはシラバス案の技能の例③に直結する頻出ポイントです。

問3|マイクロサービス

マイクロサービスアーキテクチャの説明として、最も適切なものはどれか。




解説:マイクロサービスの本質は独立性(エ):サービス単位で変更・リリース・スケールできます。ただしサービス間連携・データ整合の設計はむしろ複雑になる(ウは逆)ため、小規模システムでは割に合わないことも多い(アは誤り)。イはモノリシックの説明です。

問4|クラウド運用

クラウド活用システムの運用に関する記述として、最も適切なものはどれか。




解説:正解は(技能4の「課題を調査し解決する」の典型)。イは責任共有の考え方に反します——アクセス権限やデータの管理は利用者の責任で、設定ミスは情報漏えいの典型原因です。ウは従量課金の誤解(使い過ぎはそのまま請求増)。エも誤りで、クラウド側の障害に備えた設計は利用者の仕事です。

まとめ:小項目1-4で身につけること

  • 技能4つ=設計・運用する → 提案する → 合意を得る → 運用課題を解決する。技術だけでなく説明・合意形成まで含むのがこの小項目の特徴。
  • IaaS/PaaS/SaaSは「どこまで借りるか」の積み木。下ほど自由で運用が重く、上ほど楽で制約が強い。仮想化はクラウドの土台技術、コンテナは軽量な隔離。
  • マイクロサービスの本質は独立性(サービス単位の変更・増強)。ただし複雑さの代償があり、要件(運用コスト・信頼性・パフォーマンス)から選ぶのが技能1。
  • リフト(そのまま移す)→シフト(作り替える)の二段階が移行の定石。合意形成は数年スパンの総コスト比較と、金額化しにくい利点・新コストの正直な提示で。
  • クラウド運用の落とし穴=コスト膨張・責任分界の誤解・設定ミス・クラウド側障害。調査→解決の筋道で対処する。

関連記事・次に読む

« 第1章「システムアーキテクチャ」の章ハブへ戻る

出典(一次情報)

  • IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目B シラバス(案 Ver0.2)」大項目1・小項目1-4(2026年7月31日更新)[link]。本文中の「技能の例」引用は同シラバス案からの原文引用です。
  • IPA「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 出題範囲等の改定案 Ver.1.0」(2026年3月)

※試験名は仮称、内容は検討段階の案です。試験の形式・時間・配点・合格基準は未公表のため本記事では扱いません。技術解説(IaaS/PaaS/SaaS、仮想化・コンテナ、マイクロサービス、リフト&シフトなど)は一般に確立した知識に基づく当サイトの解説で、シラバスの記載そのものではありません。確認クイズは当サイト独自の予想問題です。正式シラバス公開時に内容を更新します。

Copied title and URL