この記事は、PD-S(システム)試験(仮称)科目B 第3章の2節目、小項目3-2「IoTを含む組込みシステム,制御システムのハードウェア設計(センサー,アクチュエーターの活用など)」の教科書です。3-1がソフトウェア側なら、本節はハードウェア側の設計——何を測り(センサー)、何で動かし(アクチュエーター)、どんな部品で組むかを決める工程です。ソフト専門の受験者でも大丈夫なように、精度と分解能の違いのような選定の基礎から、機密性(耐タンパ)、ソフトとのインタフェース設計まで、前提知識ゼロから解説します。
この節の全体像 — 設計の観点→部品の選定→ソフトとの境界
技能1:性能・信頼性・機密性 — ハードウェア設計の3観点
システムの要件を分析し,システム及び装置の性能,信頼性,機密性などを満たすためのハードウェア設計を行うスキル
図1:組込みハードウェア設計の3観点(シラバス案・技能の例①)
観点1:性能 — 処理能力と余裕の設計
プロセッサの処理能力・メモリ容量・入出力の速度を、3-1で設計したソフトウェア(タスクの負荷・リアルタイム要件)が最悪ケースでも収まるように選びます。ぎりぎりの性能で組むと、後の機能追加やソフト修正の余地がなくなるため、適度な余裕を持たせるのが設計の勘所——ただし余裕は価格と消費電力に跳ね返るので、ここもトレードオフです。
観点2:信頼性 — 壊れにくさを部品と構成で作る
1-5で学んだ信頼性・使用環境の考慮を、部品レベルで実装する観点です。動作温度範囲・振動耐性などの環境仕様が要件を満たす部品を選ぶ、発熱部品の配置や放熱を設計する、長期間動く製品では部品の寿命(消耗する部品の交換周期)まで見込む——「カタログ性能」ではなく「その環境で何年動くか」で考えます。
観点3:機密性 — モノとして盗まれ、開けられる前提で守る
ハードウェアならではの観点です。IoT機器は攻撃者が現物を入手できる——分解して基板を調べ、記憶素子から鍵情報を吸い出し、デバッグ用の端子から中身にアクセスする、といった物理的な攻撃が成立します。これに対する耐性を耐タンパ性と呼びます。設計例:暗号鍵を保護された領域に保存する、製品出荷時にデバッグ端子を無効化する、ケース開封を検知する。ネットワーク側の防御(第2章)だけでは守れない層です。
技能2:センサーとアクチュエーターの評価・選定
システムを実現するためのデバイス,特にセンサーやアクチュエーターを調査し,評価・選定を行うスキル
1-5のおさらい:センサーは測る(温度・加速度・光・圧力…)、アクチュエーターは動かす(モーター・バルブ・ヒーター…)。本節はその選び方です。センサー選定でカタログを読むときの主要観点を整理します。
図2:センサー選定の主要観点 — 精度と分解能は別物
| 観点 | 意味 | 選定の考え方 |
|---|---|---|
| 精度 | 測った値が真の値にどれだけ近いか(誤差の小ささ) | 要件の許容誤差(±0.5℃で足りるか±0.1℃必要か)から決める |
| 分解能 | どれだけ細かく読み取れるか(目盛りの細かさ) | 細かく読めても正確とは限らない——精度と混同しない |
| 測定範囲 | 測れる値の上限・下限 | 異常時の値(火災時の高温など)まで測る必要があるかで変わる |
| 応答速度 | 変化に追従する速さ | 制御周期(3-1のタスク周期)に間に合うか |
| 消費電力 | 動作・待機時の電流 | 電池駆動なら最重要級(3-1の省電力設計とセット) |
| 環境耐性・コスト | 温度域・防水・振動、価格と入手性 | 量産数量が多いほど単価の重みが増す。長期供給されるかも確認 |
アクチュエーター側も発想は同じです:必要な力・速度・動きの細かさ(要件)から種類とサイズを選び、消費電力・発熱・寿命・騒音・コストとのトレードオフで決めます。またセンサーの生の信号は微弱・連続的(アナログ)なことが多く、コンピュータが扱えるデジタル値へ変換する仕組み(A/D変換)を介す——という信号の流れも、次のインタフェース設計につながる基礎知識です。
技能3:HW/SW分割とインタフェース設計
システムのハードウェア・ソフトウェア分割を行い,それらのインタフェース設計を行うスキル
HW/SW分割そのものは1-5(技能1)で学んだトレードオフ判断です。本節で加わるのが「分割したら、境界の取り決めを設計する」——インタフェース設計です。
なぜこれが独立した技能として明記されるのか。組込み開発ではハード担当とソフト担当が別チーム・別会社のことが多く、境界の取り決めが曖昧なまま並行開発すると、結合の段になって「想定した形式で値が来ない」「異常通知の方法が違う」という手戻りが噴出するからです。仕様書として合意し、変更時は双方に通知する——3-1のデバイスドライバ設計と、本節のハードウェア設計は、このインタフェース仕様書を挟んで対になっています。
混同しやすい概念の整理
| 紛らわしいペア | 違いの核心 |
|---|---|
| 精度 ⇔ 分解能 | 精度=真の値への近さ(誤差の小ささ)。分解能=読み取りの細かさ。細かく読めても正確とは限らない |
| センサー ⇔ アクチュエーター | センサー=測る(入力)。アクチュエーター=動かす(出力)。選定観点はどちらも「要件→トレードオフ」 |
| 信頼性 ⇔ 機密性 | 信頼性=壊れにくさ(環境耐性・寿命)。機密性=暴かれにくさ(耐タンパ・物理攻撃への耐性)。守る相手が「自然・劣化」か「攻撃者」か |
| HW/SW分割 ⇔ インタフェース設計 | 分割=機能をどちらに置くかの判断(1-5)。インタフェース設計=分割の境界での取り決めを仕様化(本節)。分割したら必ず境界の設計が要る |
| アナログ ⇔ デジタル | アナログ=連続的な信号(センサーの生の値)。デジタル=離散的な値(コンピュータが扱う形)。間をつなぐのがA/D変換 |
確認クイズ(4問)
この節の理解度チェックです(当サイト独自の予想問題。公式の出題ではありません)。
「0.01℃単位で値を表示できるが、真の温度より常に約0.5℃高い値を示す」温度センサーの説明として、最も適切なものはどれか。
屋外に設置されるIoT機器の「機密性」を高めるハードウェア設計として、最も適切なものはどれか。
ハードウェア担当とソフトウェア担当が別チームで並行開発する組込みプロジェクトにおいて、結合段階の手戻りを防ぐ取り組みとして最も適切なものはどれか。
電池駆動で5年間動作する屋外IoTセンサー端末の部品選定として、最も適切な考え方はどれか。
まとめ:小項目3-2で身につけること
- 技能3つ=設計の観点(性能・信頼性・機密性)→部品の選定(センサー・アクチュエーター)→ソフトとの境界(HW/SW分割とインタフェース設計)。
- ハードウェア設計の3観点:性能(最悪ケース+適度な余裕)、信頼性(環境仕様と寿命)、機密性(現物を入手した攻撃者への耐性=耐タンパ性)。
- センサー選定の軸:精度(真の値への近さ)と分解能(読みの細かさ)は別物。測定範囲・応答速度・消費電力・環境耐性・コスト・供給性を要件に対応づける。
- 分割したら境界の設計:データ形式・単位・周期・異常通知(割込みかポーリングか)をインタフェース仕様として事前合意。単位の食い違いが結合事故の定番。
- 一貫する判断軸は第1章から同じ——要件から観点を選び、トレードオフで決める。
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出典(一次情報)
- IPA「プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目B シラバス(案 Ver0.2)」大項目3・小項目3-2(2026年7月31日更新)[link]。本文中の「技能の例」引用は同シラバス案からの原文引用です。
- IPA「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 出題範囲等の改定案 Ver.1.0」(2026年3月)
※試験名は仮称、内容は検討段階の案です。試験の形式・時間・配点・合格基準は未公表のため本記事では扱いません。技術解説(精度と分解能、耐タンパ性、インタフェース設計など)は一般に確立した知識に基づく当サイトの解説で、シラバスの記載そのものではありません。確認クイズは当サイト独自の予想問題です。正式シラバス公開時に内容を更新します。

